ファイナンスの都合で、信用力のある会社を間に挟んで支払いの担保にしたり、リース会社をはさんで金融を得たりすることがよくありますが、その場合、間に挟まった会社は中間マージンを得るだけが目的になりますので、自ら支出するのはどうかということで、本来の契約当事者からの入金後に支払いをする旨を定める条項をおくのは良くあると思います。
このようにファイナンスの都合で別会社が介在する取引で、本来の当事者とリース会社との契約が成就しなかったために、他方当事者の代金請求の帰趨が問題となってしまった事件で最高裁判決が出ました。
最高裁判所第三小法廷平成22年07月20日判決 平成21(受)309 請負代金請求事件
本件で問題となった取引は、実質はBがAにシステムを納入するというもので、そのシステムの製作をXに請け負わせたというものです。
しかし、Xが信用力のある会社との契約の形を希望したことから、発注者がYになる一方、BからAへの納入でもAのファイナンスの都合からCからのリースの形にすることになっていたという事実がありました。このような事情はよくあるものだと思われます。
よって、XY間の請負契約の注文書には、以下のような記載があり、請負の目的物は転売されてさらにリース契約の目的物になることが言及されていました。
被上告人が上告人に交付した注文書には,「支払いについて,ユーザー(甲)がリース会社と契約完了し入金後払いといたします。手形は,リース会社からの廻し手形とします。」との記載があった。
しかし、リース契約は成約にいたらず、Aからリース代および代金の支払いはなされませんでした。
そこで、Xにも請負代金が支払われないので、Yに対して請求を求めたというのが本件です。
原審は、上記のようなリース契約が成立したら請負代金を支払うという規定の存在から、これは停止条件付契約であるとして、停止条件が成就しないので契約は無効になったとして請求を棄却していました。
上記の規定に、XY間の契約とは直接関係ないリースについてもわざわざ言及したことを重視すると原審のような考えになりそうに思えますが、Aのファイナンスのためにとられた構成でXがリスクを負うのではリース会社などリスクを負う代わりにその対価を得る存在を介在させていることが意味を失ってしまいます。
上記停止条件との解釈は契約解釈ですが、最高裁はこの解釈は以下のように述べて経験則に反するとしました。
AがCとの間で締結することを予定していたリース契約は,いわゆるファイナンス・リース契約であって,Aに本件システムの代金支払につき金融の便宜を付与することを目的とするものであったことは明らかである。そうすると,たとえ上記リース契約が成立せず,Aが金融の便宜を得ることができなくても,Aは,Bに対する代金支払義務を免れることはないというのが当事者の合理的意思に沿うものというべきである。加えて,上告人は,本件工事の請負代金の支払確保のため,あえて信用のある会社を本件システムに係る取引に介在させることを求め,その結果,被上告人を注文者として本件請負契約が締結されたことをも考慮すると,上告人と被上告人との間においては,AとCとの間でリース契約が締結され,Cが振り出す手形によって請負代金が支払われることが予定されていたとしても,上記リース契約が締結されないことになった場合には,被上告人から請負代金が支払われることが当然予定されていたというべきであって,本件請負契約に基づき本件工事を完成させ,その引渡しを完了したにもかかわらず,この場合には,請負代金を受領できなくなることを上告人が了解していたとは,到底解し難い。
Cはリース会社であることだけ考慮に入れればよさそうですが、Xの合理的意思の解釈の点から、XがBの代わりにYとの契約を望んだという事実が考慮されているところにも注目するべきではないかと思われます。
上記判示から本件の契約は、リース契約の成立は支払い時期と方法について定めていたということになり、それだけではなくリース契約が成立しないことが確定したら、Yが直ちに支払うという二段構えの内容を有するものということになりましょう。
こうして原判決を破棄したわけですが、Yにまだ判断されていない主張があるらしく、そちらの審理をするために差し戻しをしています。
リースなど信用供与のために介在させる手法について、契約解釈の形で合理的に解釈をしたもので、取引全体を考慮に入れた妥当な判断ではないかと思われます。