奈良地裁、派遣社員が派遣先の社員からセクハラを受けた事案で派遣先の使用者責任を認め損害賠償請求を認容


セクハラが裁判沙汰になることも増えてきていますが、興味深い判断を示した裁判例がでました。

菓子メーカーの味覚糖に派遣された派遣社員が味覚糖の社員からセクハラを受けて神経症になってしまい、味覚糖に対して損害賠償請求をしたという事件で、奈良地裁は、味覚糖の使用者責任を認めて、慰謝料などを認容しました。

セクハラ慰謝料 「味覚糖」に命令…奈良地裁 : ニュース : 関西発 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

(2010年6月16日  読売新聞)

菓子製造会社「味覚糖」(大阪市中央区)の奈良工場に勤務していた奈良県内の派遣従業員の女性(休職中)が、上司の男性からセクハラを受け、抑うつ神経症を発症したとして、同社と人材派遣会社を相手取り、計約700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が15日、奈良地裁であった。一谷好文裁判長は「半年以上続いたセクハラ行為で精神的苦痛を被った」として、味覚糖に慰謝料など77万円の支払いを命じた。

一谷裁判長は、男性のセクハラ行為を認定し、「味覚糖に使用者責任がある」と指摘。抑うつ神経症との因果関係は認めなかった。派遣会社については「常駐責任者がセクハラ対策を講じ、義務違反はない」として請求を退けた。

判決では、女性は2007年9月~08年5月、男性にわいせつな発言や、体を触られるなどのセクハラを受けた。(略)

 

この事件では、派遣先の使用者責任を認めています。

セクハラで会社の責任を認めるには、民法715条の使用者責任構成と、職場環境配慮義務に反したとして債務不履行構成をする二種類の判断が混在しています。

使用者責任だと、ほとんど無過失責任になってしまうので、免責されることはまずありません。一方、セクハラについては、均等法で、事業主に措置義務があることが規定されました。よって、これに依拠して措置をしているかという努力を判断に反映させるためには債務不履行構成がよいという見解があります。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

3 第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

よって、これらの点から行って、使用者責任構成をとったのはどうかということと、派遣という形態でも派遣先にセクハラで使用者責任を認めたということが問題となります。

使用者責任構成についてですが、学説からは措置義務を尽くしているかを反映するのに良いとして評価されていますが、実際に債務不履行構成をとった裁判例である三重セクハラ訴訟では、セクハラが業務と関連せず、個人的に行われたということを指摘してます。よって、裁判例の考え方としては、どの機械に行われたのかによって判断を変えていると捉えることができます。本件の判決全文は確認できていないのですが、セクハラの行われたのは、業務に近い機会だったのかもしれません。

しかし、学説の依拠するところの均等法の措置義務を考慮に入れるという点からも、本件の示した派遣でもセクハラに関して使用者責任を認めたという構成は肯定することができるかもしれません。

債務不履行構成をとるとすると、当事者間に債権債務関係が必要ということになります。

しかし、均等法所定の事業主の措置義務が、派遣先と派遣労働者との債権債務関係となっているかというと、均等法が公法的な色彩を有していることを考えるとやや微妙なものがあります。

これに対して使用者責任の構成にすると、セクハラをした当人と派遣先との間の使用関係だけがあれば肯定できるので、認めやすいと考えられるように思えます。

この点から考えると、使用者責任構成というのも意味があることなのではないかと思われます。

裁判例情報

奈良地裁平成22年6月15日判決

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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