最高裁、土地の売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったフッ素が当該土地に基準値を超えて含まれていたことが瑕疵担保責任の「隠れた瑕疵」にあたらないと判示


売買契約の履行後に、目的物に隠れた瑕疵があった場合には瑕疵担保責任の追及が可能ですが、土地の売買で履行終了後、事後的に法令に基づく規制にフッ素が加えられたところ、その土地に基準値を超えるフッ素が含まれていることが発覚したという土壌汚染の事件で、瑕疵担保責任の追及が行われたところ、最高裁が隠れた瑕疵にあたらないと判示をしました。

最高裁判所第三小法廷平成22年06月01日判決 平成21(受)17 損害賠償請求,民訴法260条2項の申立て事件

民法

第570条(売主の瑕疵担保責任)

売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)

売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。

2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。

3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

 

本件で争点となるのは、事後的に規制の対象となったことは「隠れた瑕疵」に当たるかということです。

隠れた瑕疵とは、その種類のものとして通常有するべき品質を欠くことであり、それは当事者の意図によって決まるとされています(主観説)。

この点から、本件の事後的に規制の対象となった物質を含むことが該当するのかが問題となるわけです。

単純に考えて、規制の対象となっていないなら売主としては問題ないと考えるでしょうから、瑕疵に該当しないと一方当事者としては思っていることになりそうです。

すると瑕疵にならないことになりそうですが、一方で法令で規制されることで危険物質になるわけではなく、危険であることをある意味発見して規制するようになるに過ぎません。よって具体的に危険物質を特定していなくても、当事者としては人体に有害ではない土地を売買するという意図は有しているとも言えそうです。よって実は微妙な問題であり、どちらも判断しうるところですが、最高裁は以下のように判示しました。

本件売買契約締結当時,取引観念上,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり,ふっ素が,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として,法令に基づく規制の対象となったのは,本件売買契約締結後であったというのである。そして,本件売買契約の当事者間において,本件土地が備えるべき属性として,その土壌に,ふっ素が含まれていないことや,本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に
係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない
。そうすると,本件売買契約締結当時の取引観念上,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について,本件売買契約の当事者間において,それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず,本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても,そのことは,民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。

まず、当事者双方の認識の点ですが、規制がされる前には、危険物質であるとの認識がなかったということを認定しています。よって、主観説の立場からは瑕疵にならないということをまず述べています。

次に、抽象的にとどまるとしても、危険物質を含まない土地の売買をするという認識があったかという上記後半の点については、そのような認識を当事者が有したいた事情が伺われないとして否定しています。

よって、隠れた瑕疵にあたらないと判断して、請求を認容した原審を破棄自判して請求を棄却しています。

上記二段構えの構成からわかるように、最高裁は契約後に規制がされたという時系列の問題で単純に瑕疵に当たらないと判断しているわけではありません。

抽象的に危険物質を含まない合意のようなものがあったらなお隠れた瑕疵に該当する可能性は認めており、同種の事例でも事実関係によって結論が変わることもありそうです。

 

本件の本筋は「隠れた瑕疵」ですので問題にならないのですが、隠れた瑕疵に当たるとした場合、1年の期間制限の問題になりそうです。

1年の制限は除斥期間と解されており、履行が終わった売主側の信頼が根拠とすると、本件のように売買の履行が終わって10年以上経過してから法規制にフッ素が加えられたという事情がある場合、責任追及が認められるのかは問題になりそうな感じがします。

もっとも、フッ素の含有量が確定してから初めて権利行使が期待できることから、なお瑕疵担保責任追及が可能であるという考え方もできそうです。

 

民法の論点とは関係ないですが、本件の買主は自治体でした。

よって、住民訴訟のおそれも考えての訴訟追行なのではないかと思われますが、工場の撤去と再開発が多い今日では同種の問題を抱えている自治体は多いと思われます。

今回の判示からいくと事実関係に左右される微妙な点も含まれるため、同じような紛争を抱える自治体はどうするべきか難しい判断を迫られるかもしれません。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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