最近、大学内部において論文のもととなるデータの捏造などが指摘されて学位取り消しなどの紛争になることがあります。
大学の対応によっては内部問題にすまないことがあり、司法で争われる事例が出ていますが、そのような事例の一つで懲戒解雇を無効とした決定が出たので取り上げます。
東北大助教・論文不正:元助教の解雇は無効「東北大の手続きに問題」--仙台地裁決定 – 毎日jp(毎日新聞)(毎日新聞 2010年5月18日 )
過去の論文に使ったデータを別の論文に使い回ししたとして、09年12月に東北大を懲戒解雇された同大大学院歯学研究科の元助教、上原亜希子さん(41)が大学側に地位保全と賃金支払いを求めた仮処分申請で、仙台地裁は14日付で解雇を無効とし、賃金の一部支払いを命じる決定をした。
同地裁の本多哲哉裁判官は決定理由で「従前の実験データと類似したデータが、事後の実験でも得られることがあり得る。実験データを流用した不正行為の真偽は不明」と指摘。上原さんが再実験を申し出たのに拒否するなど、東北大の懲戒処分の手続きに問題があったと認定した。
(略)
国立大学法人内部の問題なので、労働事件としてはすこしずれていますが、解雇をめぐる問題として取り上げます。
懲戒解雇を有効にするには、就業規則に懲戒に関する規定を有しており、具体的な事案がその懲戒事由に該当して、具体的な処分が濫用ではないことが必要です。濫用に関してのみ労働契約法15条に規定があります。
第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
上記報道によると、手続に問題があるとされているので、濫用審査において切られたように思われますが、そもそも実験データの使い回しもなかった可能性がありそれを確かめるための再実験としての手続に問題があったということのようです。すると懲戒事由該当性の点での問題なのかもしれません。
労働法とは関係ない事実上の問題ですが、大学内では学閥など色々な問題があるために、実験結果の捏造だとかいわれても、額面どおり受け取ることはできない構造があるようです。こう考えると司法審査をするにして非常に難しいものがあるといえるのではないでしょうか。
裁判例情報
仙台地裁平成22年5月14日決定