またもやタイトルがわかりにくくいですが、民法と民事訴訟法が交錯する事件で意義深い判例がでましたので取り上げます。
不動産の共同相続があって共有となったところ、相続人ではない者にも持分がある共有登記がされていたため、共同相続人のうちの一部が、原告らが主張するところの無権原で持分を保持している者を相手取って、抹消登記手続請求をしたという事件がありました。
最高裁判所第三小法廷平成22年04月20日判決 平成21(オ)1408 所有権保存登記抹消登記手続等請求事件
具体的には、法定相続分はX1が2分の1、X2が4分の1、訴外Aが4分の1だったのですが、本件不動産については、Yに2分の1、X1に4分の1、X2・Aに8分の1の登記がされていたというものです。
ここで問題となるのが、まず民法の話なのですが、Xらが提起する請求の趣旨です。
共有者は自らの共有持分を理由として、保存行為に該当するために抹消登記請求を単独ですることができるというのが判例ですので、共同相続人の一部しか訴訟提起をしていない本件でも、有効な請求であるように思えなくもないですが、本件ではXらとYを含めての共有の登記になっているために問題が生じてしまうことになります。
判例で認められたのは、所有名義者に対する抹消登記手続請求でして、本件で問題となる共有登記の一部抹消というのは登記上できないため、この判例に依拠しても認容しても許されない登記手続きを命じることになってしまうのです。
よって、更正登記をするべきであるということになるわけです。
すると今度は、民事訴訟法の問題が浮上してきます。
抹消登記手続きを請求しているのに、更正登記を認容するのは、申立事項(民訴法246条)に反するのではないかということです。
第246条(判決事項)
裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。
しかし、何を求めているのかの判断が簡単ではない場合には、判例は請求の趣旨と判決の内容が食い違っていても、判決の内容が請求の趣旨の合理的範囲におさまっている場合には申立事項にない判決をした処分権主義違反とはしていません。
この点の先例としては形成権が介在する場合が多く、建物収去土地明渡請求で建物買取請求権が行使された場合に、建物退去土地明渡請求になることが認められています。
今回、これと同じ考え方を本件にも適用した模様で、以下のように述べています。
被上告人らの本件登記部分の抹消登記手続請求が意図するところは,上告人が持分を有するものとして権利関係が表示されている本件保存登記を,上告人が持分を有しないものに是正することを求めるものにほかならず,被上告人らの請求は,本件登記部分を実体的権利に合致させるための更正登記手続を求める趣旨を含むものと解することができる
以上のように述べて、更正登記手続を命じる判決を出すことを認めました。
特に理由は述べられていないのですが、この点の判断については、登記法の問題で保存行為としての抹消登記手続ができないという点が作用しているのではないでしょうか。もし、原告らが請求を誤っていたのなら、却下になるだけなのではないかと思われます。
すると、更正登記になるため、保存行為とはいえなくなり、自己の実体法上の権利に依拠して請求することになるため、自己の相続分は登記なくして対抗できるという例の判例法理に戻って、X1X2は、自己の共有持分の限度でしか更正登記を求めることができないことになります。
そこで、結果として、相続分に比して不足しているX1に4分の1、X2に8分の1だけ更正登記されることになり、被告の持分は8分の1だけ残ってしまう結論になってしまいました。
誰と共有関係になるかというのは重大な問題であるように思われますが、Aが訴訟に加わっていないために仕方ないということになりましょう。