確定判決の効力として、その訴訟物に関する判断を以降争えなくなるというのが既判力で、それを覆せるのは再審によらなければいけません。
しかし、判例により、再審によらないでも、前訴の判断を争うことが認められる場合があり、「判決の騙取」と呼ばれる問題がそれにあたります。
これは最判昭和44年7月8日民集23巻8号1407頁によって示されたもので、相手方の訴訟手続への関与を妨げたり、裁判所を欺罔して判決を得たりして、ありえない判決を得て執行するなど著しく正義に反する特段の事情がある場合には、再審によらないまでも不法行為による損害賠償ができるとしているものです。
ちなみに、この昭和44年判決では、あまりはっきりと規範が書かれておらず、判示事項として付加的に書かれた部分にきれいに書かれているという不思議な事件になっています。それ以降の判決がこの昭和44年判決を引用する場合には、それが引かれており、以下のような規範で確立しています。
当事者の一方が,相手方の権利を害する意図の下に,作為又は不作為によって相手方が訴訟手続に関与することを妨げ,あるいは虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔するなどの不正な行為を行い,その結果本来あり得べからざる内容の確定判決を取得し,かつ,これを執行したなど,その行為が著しく正義に反し,確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合
に限って,許される
この特段の事情はかなりハードルが高いもので、送達先について調査に懈怠があった最判平成10年9月10日判例時報1661号81頁では、害意がないとして認めていません。
そのようなかなり、極限的な場合ではないと認められない「判決の騙取」に、認められないとした判断をした新たな事例が加わりました。
最高裁判所第三小法廷平成22年04月13日判決 平成21(受)1216 損害賠償等請求事件
この事件のそもそもの発端は、不動産の買主と仲介業者とのトラブルで、当該目的不動産が市街化調整区域で建築制限を受けるのに訴の説明を怠ったとして、買主が訴えたというものです。
前訴では買主の請求が認容されて確定しているのですが、仲介業者が、前訴で買主が主張した説明を受けていないなどの主張は虚偽の陳述であり、その他についても虚偽の陳述をして裁判所を欺罔して判決を編集したものだとして、損害賠償請求の後訴に及んだというものです。
原審は請求を認容しており、前訴は、買主の請求が17年もたってからのものであり、バブル崩壊にともなう地価の下落分を取り戻そうとしたためであるとして、判決の騙取を認めています。
しかし、最高裁は、これは証拠の評価が異なったに過ぎず、上記の規範に照らして、裁判所の欺罔とまでは評価できず、特段の事情はないとしました。
原審は,前訴判決と基本的には同一の証拠関係の下における信用性判断その他の証拠の評価が異なっ
た結果,前訴判決と異なる事実を認定するに至ったにすぎない。しかし,前訴における上告人の主張や供述が上記のような原審の認定事実に反するというだけでは,上告人が前訴において虚偽の事実を主張して裁判所を欺罔したというには足りない。他に,上告人の前訴における行為が著しく正義に反し,前訴の確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情があることはうかがわれず,被上告人が上記損害賠償請求をすることは,前訴判決の既判力による法的安定性を著しく害するものであって,許されないものというべきである。
判決の騙取にあたると認めると、前訴には既判力がないようなことになりますので、重大な効果が生じます。それを考慮して、かなり高いあードルを設けている以上、もし事実なら不当ではありますが再審事由には該当しない本件の事情では、とても確定判決の騙取とはいえないというのはそのとおりだと考えられます。