労働基準法に定められている労働時間規制の中に裁量労働制というのがあり、労働時間規制がそのまま適用されるわけではない例外を定めています。
これは、専門業務型と企画業務型と呼ばれる二種類がありますが、要するに、専門的で自主的な業務に従事する労働者には労働時間規制を適用せず、いくら働いても労使協定で定めた労働時間分の労働をしたとみなすというものです。
法定労働時間が公法的規制として存在するために、みなすというやや不可解な扱いをしているわけです。
さて、このみなし労働時間制にはもう一つ亜種がありまして、事業場外労働のみなし制というのがあります。
これは事業場外で労働する場合には、ものによっては労働時間を算定しがたい場合があるために、所定労働時間だけ労働したものとみなしてしまおうというものです。
労働基準法
第38条の2
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
②前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
③使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
〔昭六二法九九本条追加、平五法七九第四項改正、平一〇法一一二第四項・五項削除、平一一法一六〇第一項・三項改正〕
これが妥当するのは、取材に従事する記者や外勤営業社員が良くあげられるのですが、上記の条文の文言からわかるように、労働時間を算定しがたい場合であることが要件になっているために、争いになって適用が否定されることが結構あります。
派遣契約の旅行の添乗員のケースでこの事業場外みなし労働制の適用が否定された判例が出ましたので取り上げます。
派遣添乗員の残業代請求訴訟:労働時間把握は可能 東京地裁、「みなし制」適用認めず – 毎日jp(毎日新聞)
添乗員派遣会社「阪急トラベルサポート」(大阪市)に登録する50代の女性添乗員が、あらかじめ決めた時間を働いたことにする「みなし労働時間制」は不当として、残業代支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁は11日、会社側に請求通り約56万円の支払いを命じた。同社は「添乗員の労働時間把握は困難」と主張したが、鈴木拓児裁判官は「把握は可能」と判断した。
(略)
争点となっているのは、旅行の添乗員であると常時勤務しているわけではないことも考えられることから勤務解放の時間があり、それらを正確に算定することは難しいので、みなしの適用の要件を満たすと考えることはできるかいう点です。
これは中々難しい問題ですが、添乗員となると、旅行中に何かあったら休憩中でも随時、対応しないといけないことが考えられます。よって労働時間該当性についての指揮命令下説にたつ判例の立場に依拠しても、労働時間に該当するということが言えるように思われます。
さらに、派遣添乗員にはみなし労働制は適用されないという労基署の指導もあるらしく、それを無視していることから、その点からもみなし労働制の適用を否定する判断の根拠とされている模様です。
この労基署の指導を具体的には知らないのですが、派遣添乗員だと適用されないという結論をどうやって導いているのかはよくわからないところがあります。添乗員の労務の特性から行くと、すべからく指揮命令下にあることになりそうなのですが、派遣だとよりいっそう不適用の判断になる事情はあるでしょうか。派遣は派遣先が指揮命令することができますので、違いが出るのかいまいちわからないところがあります。
裁判例情報
東京地裁平成22年5月11日判決