千葉地裁、業績悪化を理由とする定期昇給停止を違法として損害賠償請求を一部認容


業績悪化を理由として定期昇給を停止して6年になる会社が、労働者から定期昇給していた場合の賃金との差額の損害賠償を請求された事件で、請求が一部認容されるという裁判例が出ました。

業績悪化理由の定昇停止に賠償命令…千葉地裁 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)(2010年3月19日)

業績悪化を理由に6年間、定期昇給を停止したのは違法として、建設機械メーカー「三和機材」(東京都中央区)の従業員らが、会社側を相手取り、計約6800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が19日、千葉地裁であった。

菅原崇裁判長は「労働組合に真摯(しんし)に定昇停止の必要性について説明したとは認められない」として、定昇が行われた場合との給与の差額718万円を支払うよう会社側に命じた。

判決では、定昇の停止について、「会社側の裁量で適用できるものではない」とした上で、「停止が会社にどの程度必要で、それによって従業員が被る不利益の程度などを考慮した上で決めるべき」との判断を示した。

会社側は、就業規則の中に、事業の情勢によって昇給を停止する規定があるなどと主張していた。

(略)

定期昇給というのは、毎年、既存の賃金体系でどれだけ上に上がるかというもので、年功的に上昇していくものです。

これに対してベースアップ(通称ベア)は、賃金体系におけるそれぞれの賃金額そのものを上昇させるものです。

不景気になるとまず賃金総原資を維持するために、ベアを凍結しますが、定期昇給は退職者等を勘案すると、賃金総原資を増やさないため実施するというのが常です。

このベアと定期昇給ですが、しない場合に労働条件の不利益変更の点からどのように評価されるかについてはまったく異なります。

原則、ベアは労使で合意すればできることであり、しないもの可能です。

これに対して、定期昇給は、一般的に毎年どれだけあがるかについてルール化しているためにこれが労働条件の内容になっています。したがって、しないためには労働条件の不利益変更をしないといけないことになります。

もっとも定期昇給のルールがないなら、裁量になります。しかし、多くの労働者を雇用している会社ではルールを持っていることも多いと思われます。

本件においては、報道しか参照することができないので、確言で着ないのですが、就業規則中に定期昇給についての規定があり、規定の中には定期昇給停止についての規定もあるようです。

定昇のルールと使用者に定昇をしない裁量を与える規定の双方を有している場合に、定昇のルールの方を優先して、労働条件の不利益変更法理に乗せる処理をしたものといえるでしょう。

その上で、組合との交渉について言及していますので、就業規則の不利益変更を定める労働契約法10条に照らして合理性がないと判断された模様です。もっともきちんと説明していないということは、そもそも定昇をしないことの必要性が怪しいと判断したのかもしれません。

労働契約法

第10条

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

定期昇給はベアに比べると負担の小さいものであるために、このような判断になったものと思われます。

会社の裁量で定昇を行わないこともできるとする規定を入れておいても、そのままの効力を認めることはできないという判断はそのまま維持されるのではないかと思われますが、一方で、定昇は、しなくても前年並みの賃金は維持されるため、不利益はそれほど大きいとは言えず、必要性さえ満たせば、クリアできるのではないかと言われることが多いです。よって、本件についても、全文を見ていないのでなんともいえないのですが、事実認定によっては判断が変わることがあるかもしれません。

 

裁判例情報

千葉地裁平成22年3月19日判決

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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