最高裁、内規に従い支給されることになった退職慰労金を経営悪化をきっかけとして、集団的画一的な処理が制度上要請されることを理由として内規を廃止してすでに退任した取締役の退職慰労金を失わせることはできないと判示


非常に長いタイトルになっていますが、事案の特性ゆえに留保を色々とつける必要があり、こうなってしまいました。

退任した役員に支払われる退職慰労金は判例によって報酬類似のものであるとされて、会社法361条の報酬規制がかかるというのは基本的な知識です。

そして、普通の報酬とは異なり、株主総会で総額を決議することは要せず、算定基準だけ決議すればよいとされており、一定の基準に基づいて算出された退職慰労金を支給することを取締役会に一任する決議をするというのが実務の扱いです。(退職慰労金自体が機関投資家の反対で減ってきているということは本件ではひとまずおいておきます)

そのようにして、株主総会決議で取締役会に一任されるのですが取締役会が具体的な支給決議をしなかった場合には、金額が確定して初めて退任取締役には退職慰労金請求権が発生するとされており、取締役会決議がないと一切請求することができないということになります。

退職慰労金が普通の退職金のように一時金だけなら、金額を決定したら、支給して終わりになるところですが、年金形式の退職慰労金の場合、具体的な金額が決定してからも、具体的な支給する機会が何度もあり、その間に問題が発生することが想起されます。

そのような、具体的な退職慰労金請求権は発生してからその退職慰労金を失わせようとしたという事件で最高裁判決が出ました。

最高裁判所第三小法廷平成22年03月16日判決 平成21(受)1154 退職慰労金等請求事件

この事件の一審原告であり上告人は、被上告人のもと常務取締役、被上告人は広島県の第二地方銀行であるもみじ銀行です。

もみじ銀行は、その前身である広島総合銀行が経営が悪化した際に、いろいろとリストラをしたのですが、その際に、退職慰労金にも手をつけたことで今回の紛争が発生しました。

当該退職慰労金は、一時金と年金の二種類から構成されており、一時金はすぐに支払われて履行終了したのですが、年金は20年間毎月支給を受けるというもので、支給を受けている間にリストラによって、このような退職慰労金の内容を定めている内規が廃止されて、以降の支給が打ち切られたというものです。

個別の同意があれば支給打ち切りも可能であり、実際、大半の元役員たちは打ち切りに同意したのですが、この事件の原告は同意せずに、支給を求めて古巣を訴えたという事件です。

原告の訴えに対して、もみじ銀行側は三段構えの反論をしています。

  1. 退職慰労金における集団的、画一的な処理が制度上要請から、一定の場合には同意なく変更することが可能である。
  2. 取締役に就任したときの委任契約で黙示に内規が廃止されたときには退職慰労金が支給されないことが合意されていた。
  3. 事情変更の原則

原審は、上記のうちの1を支持して請求を棄却していました。

その趣旨は、集団的、画一的要請と被告の主張をそのまま用いており、要するに退任役員間で不平等が生じるのは問題である点に配慮した判断であると考えられます。

しかし最高裁は、集団的,画一的な処理の要請ということを否定して、破棄差し戻しをしました。

その理由について、退職慰労金には、内規があるというだけで、集団的,画一的な処理の要請がされているとはいえないとしています。

退任取締役間の公平のために一旦生じた契約の効力を否定してまで、集団的、画一的な処理の要請があるとみることはできないとしています。

そこから、被告主張の1に依拠して退職慰労金を失わせることはできないとして、2と3の主張について審理をするために差し戻しをしています。

具体的な決議をして金額が確定したら、具体的な請求権が発生するという理解をしている以上、個別具体的であることは否定できず、画一的要請によって破られてしまう理由がないというのはそのとおりでしょう。

もっとも本件では、銀行がつぶれかかってしまったということに起因していることから、何だか結論の妥当性に引っかかるものがあります。

経営悪化の原因を歴代役員たちが作ったともいえるわけで、経営責任の観点からどうなのだろうかということです。

その点については、突き詰めれば423条や429条の問題なので別のことであると割り切ることもできますが、難しいところです。

差し戻し後は、経営悪化が事情変更といえるかは微妙であるために、被告の主張の2が主たる争点になりそうです。

 

この判示によって、金額が確定して発生した退職慰労金請求権は、個別の同意がない限り減額等をすることができないということが示されました。

例外としては、取締役の委任契約に黙示でも同意が必要ということになりましょう。

しかし、よく考えると、具体的に発生した退職慰労金請求権を長期間履行することになり、その間に状況が変わるというのはやや珍し意といえるかと思います。よって、これまでの退職慰労金に関する法理や契約の基本原則からそのまま導かれる結論であることを考えるとまあ妥当な帰結なのかもしれません。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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