東京海上日動火災RA制度廃止訴訟第一審判決の簡単な検討


JAPAN LAW EXPRESS: 東京海上日動火災が外勤社員を廃止しようとして、外勤社員の一部が地位確認請求をした事件で、東京高裁で和解が成立」の関連情報です。

東京高裁で原告よりの和解で終了した東京海上日動火災RA制度廃止事件ですが、この第一審判決についてごくごく簡単に検討してみたいと思います。検討というほどではなく、感想のようなものに過ぎないのですがご了承ください。

東京地裁平成19年3月26日判決判例タイムズ1238号130頁

この事件は、東京海上日動火災が、保険契約募集に従事する外勤の正社員「契約係社員」という制度を廃止しようとしたものです。

リスクアドバイザーと呼称されていたので、RA制度廃止事件と呼ばれることになりました。

この事件では、確認の訴えだったため、確認の利益があるかがまず問題になったのですが、その次には職種限定の労働契約であったかが論点になりました。

保険業(しかも損保)の特徴から、このRAがいかに特殊であるかはなんとなく想像がつくところですが、第一審は職種限定を認めています。

裁判例が労働契約で職種限定を認めることは非常に珍しいです。よってこの点でもこの裁判例には、検討する価値がありますが、詳細な事実を拾っているということにとどめます。

問題は、この第一審判決は、職種限定契約だとしながら、労働者の合意なく労働条件を変更することを認める一般論を展開したのです。

労働契約において職種を限定する合意が認められる場合には,使用者は,原則として,労働者の同意がない限り,他職種への配転を命ずることはできないというべきである。問題は,労働者の個別の同意がない以上,使用者はいかなる場合も,他職種への配転を命ずることができないかという点である。労働者と使用者との間の労働契約関係が継続的に展開される過程をみてみると,社会情勢の変動に伴う経営事情により当該職種を廃止せざるを得なくなるなど,当該職種に就いている労働者をやむなく他職種に配転する必要性が生じるような事態が起こることも否定し難い現実である。このような場合に,労働者の個別の同意がない以上,使用者が他職種への配転を命ずることができないとすることは,あまりにも非現実的であり,労働契約を締結した当事者の合理的意思に合致するものとはいえない。そのような場合には,職種限定の合意を伴う労働契約関係にある場合でも,採用経緯と当該職種の内容,使用者における職種変更の必要性の有無及びその程度,変更後の業務内容の相当性,他職種への配転による労働者の不利益の有無及び程度,それを補うだけの代替措置又は労働条件の改善の有無等を考慮し,他職種への配転を命ずるについて正当な理由があるとの特段の事情が認められる場合には,当該他職種への配転を有効と認めるのが相当である。

結局、不利益が大であり、正当な理由がないとして、廃止にともなう労働条件の変更を認めていないので、請求認容の結論になっているのですが、結論はともかくこの規範部分については、大変強い批判が学説から寄せられています。

職種限定があったなら、労働契約法10条の趣旨から言って一方的な変更はできないはずであるという点からの批判です。

労働契約法

第10条

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働条件の不利益変更の問題を研究する際も、まず職種限定があったかを検討するものですから、上記のような規範になってしまうと大変なことになります。よってこの批判はもっともなのですが、一方でこの裁判例の悩んでいることもよくわかる気がします。

この事件の事実では、どうみても職種限定はないという評価をするのは至難の業です。そこで、限定はあるとせざるを得ないとしても、本当にそこから単純に「よって変更できない」とするのでよいのかという点です。

この件は損害保険なので、状況が違いますが、業種によっては、会社がつぶれるとしても譲らない労働者というのはいるもので、一本道しかない法理を作ってしまうのに躊躇があるのはもっともだと思います。

どうみても、無理のある規範ですが、企業労務側からすると、なんとなく納得できる点があるのは確かなのではないかと思いました。

そのような無理のある事件ですから、控訴審で和解に終わったのもある意味納得の行くことだったのかもしれません。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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