飲食産業の労働環境の苛酷さはすっかり顕著な事実になりましたが、関連する裁判例が出ました。
マクドナルドの元社員が勤務中に死亡したということがあり、遺族が労災認定を求めたところ、川崎南労働基準監督署に認定されず、その処分の取消を求めて提訴していたという訴訟で、東京地裁は原告の請求を認容して、処分を取り消しました。
マック社員死亡、労災認める判決 「サービス残業常態化」(日本経済新聞2010年1月19日)
日本マクドナルドの男性社員が2000年、出勤後に心臓疾患で急死したのは過労が原因として、遺族が労災認定しなかった国の処分取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁(渡辺弘裁判長)は18日、死亡と業務の因果関係を認め、処分を取り消した。
渡辺裁判長は判決理由で、同社の勤務態勢について「正社員は勤務実績通りに時間外労働を申告せず、サービス残業が常態化していた」と指摘した。
そのうえで、男性の発症前の1カ月間の時間外労働が「算定可能なだけで約79時間」と認定。自宅でのパソコン作業についても業務と認定し、「負荷の強い業務に長期的にさらされるなどして、異常を引き起こした可能性が極めて高い」と結論づけた。(07:00)
あくまで労災認定の問題であり、マクドナルドに損害賠償請求をしているとかではありません。
労災とは労働災害にあうと保険が支給されるという制度のことで、労働災害には業務上の負傷、疾病、死亡などが該当します(労災保険法7条1項1号)。
本件で問題となるのは、当該社員の死亡が業務上の疾病の結果といえるかです。
いくつかの業務と特定の疾病については労働基準法施行規則で業務起因性について指定されているのですが、そのほかにバスケット条項があり「九 その他業務に起因することの明らかな疾病」(別表1の2)という規定が置かれています。
労災認定が問題となるのは、個別に列挙されているものに該当せず、これに該当するかが争われる事件です。
よって、大事になるのは発症前の労働時間や労働の内容となります。サービス残業に関する事実認定についても、それによって労働時間が多くなり心臓疾患を発症したということについて意味のある事実ということになります。
この分野については、どれほどの労働をしていてその後どのような疾病になったかについて事例判断が蓄積されているところで、本件は事例判断として新たに付け加えられたものといえるでしょう。
判例・裁判例情報
東京地裁平成22年1月18日判決