横浜地裁、ドン・キホーテ放火事件で金商法の相場操縦目的暴行脅迫罪を適用


ディスカウントショップ大手のドン・キホーテの株価を下落させて空売りによって利益を得る目的でドン・キホーテの店舗に放火をした男が、現住建造物放火未遂のほか、金商法の相場操縦目的暴行脅迫罪に問われたという非常に珍しい刑事事件で横浜地裁は、良材の成立を認めて懲役6年を言い渡しました。

ドンキ放火未遂、被告に懲役6年 横浜地裁判決(日本経済新聞2009年11月25日)

ドン・キホーテの株価を下落させ、「空売り」で利益を得る目的で、店舗に火を付けたとして、金融商品取引法違反(相場変動目的暴行・脅迫)と現住建造物等放火未遂の罪などに問われた無職、関根英雄被告(37)の判決公判が24日、横浜地裁であり、小森田恵樹裁判長は「利欲的で身勝手な動機に酌量の余地はない」として、懲役6年(求刑懲役8年)を言い渡した。

公判で弁護側は「金商法の暴行、脅迫の対象は取引相手や投資家などに限られると解すべきだ」などと主張したが、同裁判長は「相場変動の恐れが生じれば、対象は限定されない」として、同法の相場変動目的暴行・脅迫の罪に当たると判断した。弁護人によると、同条項適用を認めた判決は初。

判決によると、同被告はあらかじめ同社株を信用取引で売却し、株価を下落させた上で、安値で買い戻す「空売り」で利益を得ようと計画。昨年5月と7月、横浜市の2店舗内の商品などにライターで火を付けたほか、新聞社や同社本社に放火を予告する文書を送った。いずれも火は従業員が消し止めた。(24日 23:01)

刑法の条文はともかくとして、相場操縦目的暴行脅迫罪の条文は以下です。

金融商品取引法

第158条(風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止)

何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等(有価証券若しくはオプション又はデリバティブ取引に係る金融商品(有価証券を除く。)若しくは金融指標をいう。第百六十八条第一項、第百七十三条第一項及び第百九十七条第二項において同じ。)の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。

第197条

次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

五 第百五十七条、第百五十八条又は第百五十九条の規定に違反した者

単純に考えると、放火することが、いかに金商法に定められたものとはいえ、脅迫には該当しないのではと思いますが、男は株価に影響するように放火まえに予告をしており、これが脅迫に該当するということなのでしょう。

さて、上記報道のとおり、弁護人は暴行脅迫の客体は、投資家など証券市場の人間に限られるとして、発行会社に対する暴行脅迫は構成要件に該当しないと主張していた模様です。

この条文は証券取引法のときからあるものですが、私の保有している証券取引法および金商法の概説書でこの「暴行脅迫」の客体について解説しているものはありませんでした。

弁護人は、風説の流布、偽計とまとめて規定されていることに注目して、同じ条文なのだからこれらの行為と客体が同じものに限られると解釈するべきという主張なのではないかと想像します。風説を発行会社に対して流布しても意味がありませんので、自ずから客体は市場に限定されるでしょうから、それと同じに解するべきということなのでしょうか。

しかし、仮にそのような根拠だとしても、風説の流布などは限定する意味で客体を限定しているわけではなく、行為の性質上そうなるというだけでしょうから、暴行脅迫までそう解する理由も特段ないように思えます。

よって、横浜地裁の解釈はそのとおりなのではないかと思います。

もっとも弁護人の方がもっと十分な根拠のある論拠から主張されたのかもしれませんので、上記はあくまでも仮説の上に仮説を積み重ねた検討にすぎません。どうかその旨、ご了承ください。

さて、そもそも論なのですが、金商法で目的犯の規定が適用されるのは極めて珍しいです。目的の立証が極めて難しいためです。

本件では、予告を会社に送りつける等の行為をしているために、比較的認定しやすい面がありますが、それでも大変なことだと思います。

判決年月日

横浜地裁判決平成21年11月24日

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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