東京地裁、ライバル会社と業務提携している会社に転籍するための一斉退職を背信的行為として退職金請求を棄却


有線放送は非常に特徴的な業界で、もとより仁義なき戦いを繰り広げているのですが、その紛争のうちの一つである社員の大量引き抜きに関連する退職金請求事件で判決が出ました。

訴えていたのは、業界2位のキャンシステムを退職して、最大手であるUSENと業務提携している会社に入社した社員たちであり、314人がキャンに退職金を請求していたものです。

東京地裁判決平成21年10月28日

東京地裁は、一斉退職を背信的行為として、退職時期が早かった289人について、重大な損害を与えることを意図しながら共謀して一斉退職したとして、懲戒解雇事由に該当するとして、退職金請求を棄却しました。

時期が異なる残りの原告については、上記のような事情が認められないとして請求を認容しています。

一斉退職:「背信的行為」退職金請求棄却 東京地裁判決(毎日新聞2009年10月29日)

有線放送業界2位の「キャンシステム」(東京都新宿区)を一斉退職し、業界最大手の「USEN」(港区)と業務提携を結ぶ会社に移った314人が、キャン社に退職金支給を求めた訴訟の判決で東京地裁は28日、25人を除く原告の請求を棄却した。白石哲裁判長は「一斉退職は著しく信義に反する背信的行為」と述べた。

(略)

判決は原告のうち289人について「キャン社に重大な損害を与えることを意図しながら共謀して一斉退職した。懲戒解雇理由に当たり退職金を受け取る権利はない」と判断。退職時期が遅かった残り25人は「共謀しておらず引き継ぎもしている」と訴えを認めた。

ライバル会社による引き抜きの論点は、労働者には職業選択の自由がある上、民法を見ても辞職の自由があります。さらに使用者にも人材獲得に関する自由競争があることから、会社に重要な人材でも引き抜いただけでは不法行為にならないのは有名なことです。

そのためにかなり悪質な行為でないと不法行為とはなりません。

しかし、本件では問題となっているのは、転籍した労働者であり、不法行為の成否が問題となっているのではなく、退職金の請求をしているというものです。

キャン社の就業規則の内容は判例全文を見ていないのでわからないのですが、標準的な内容のものを有しているでしょうから、故意に会社に損害を与えることは当然に含まれるでしょう。よって退職金が発生しないという結論を導くことは、上記のような事実関係に照らすと可能であるように思えます。

悪質な引き抜きは不法行為になりますが、それに応じて退職する側は、不法行為になるとまではいえないでしょう。

もっとも競業避止義務の問題はありますので、同義務が肯定されるような労働者であれば責任が生じることになります。よって労働者側に完全に何の責任も生じないというわけではないと考えられますが、辞職の自由、職業選択の自由から、旧使用者に対する責任が生じるのはよほど程度のひどい場合になることになると思われます。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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