連日のWTO法関連の話題です。
輸入品にダンピングがあると対抗措置をとって関税をかけることができるのですが、ダンピングがあるという認定をする場合には、価格の比較をします。
輸出国の国内価格と比較したり、他国向け価格と比較をしたりするのですが、単品で診ても仕方がないので集合的に観察します。
この際に、ダンピングがない方向に作用する数値、すなわちマイナスがでてしまった場合にそれはなかったことにして0扱いをすることをゼロイングといいます。
これをするとダンピングと認定しやすくなるわけです。
ゼロイングが適法なのかはWTOで長く争われたテーマですが、違法ということで決着しています。
しかし、争いはいまだに続いているのです。それは遵守審査というのですが、違法とされた措置をやめたかどうかが争いになっているためです。
このたびアメリカのゼロイング廃止の遵守審査で日本の主張を認めてアメリカはいまだにゼロイングをしているという認定がWTO上級委員会によって出されました。
米の反ダンピング関税調査、日本の主張認定 WTO報告書(日本経済新聞2009年8月18日)
世界貿易機関(WTO)は18日、米国による反ダンピング(不当廉売)関税の調査手法について日本の申し立てを全面的に認める報告書を発表した。米国の手法がWTO協定に違反しており、是正勧告も履行していないことが確定した。米国が是正しない場合、日本は関税引き上げによる対抗措置を発動できる。
日本が問題視していたのは、米国がダンピング調査に用いている「ゼロイング」という手法。日本からの高値での輸出を無視し、安値での輸出だけを抽出して計算し、輸出全体をダンピングと認定する。日本から米国に輸出するベアリング(軸受け)で不当な高関税をかけられており、日本は280億円の損害が出ているとみている。
(略)
WTOの紛争処理手続は、パネルが一審であり上訴すると上級委員会というところに行きます。
ゼロイングはパネルでは適法とされてきたのですがそのたびに上級委員会が目的論的解釈をして、ゼロイングは違法だという判断を繰り返してようやく違法と確定したという歴史があります。これらの事情を知っているとまだまだ遵守されていないといういこと自体は憂うべきですが、違法という判断自体は確立しているということには感慨深いものがあります。