WTO発足以来、国家間の通商紛争についてかなりの数の判断が下されています。WTOには強制する手段はないのですが、WTOのパネルが違反と判断すると相手方当事国が対抗措置をとることができるようになり、これによってWTO法上違法と評価された各国の措置はなくす方向に向かうという構造になっています。
WTOになってから顕著になったことにアメリカの国内法が違法であると判断されることが増えたことがあります。
その一つにバード通商条項という有名なものがあります。
国内で十分利益を得ることで海外には原価割れで輸出をして、その国の市場を手に入れてしまおうという行動がなされることが考えられますが、これをされると結果として公正な通商ではないのでアンチダンピングという措置をWTO法ではとることができます。具体的には暫定措置、ダンピング防止税、価格約束の措置のみできます。
ところがアメリカはこのアンチダンピングを、国内産業保護のために使うということをこれまでしてきました。
いろいろなことをしてきたのですが、本件で問題となっているバード修正条項というのは、ダンピング防止税で得た租税収入をダンピングを申告した国内事業者に分配するというものです。
これは、事業者間の損害賠償を国が代わってやってやるようなものですので、認められた措置に含まれないとしてWTOのパネルで違法であるということで決着しています。
しかしアメリカ議会が強行でいつになっても法律を改正しないのでそのままになっており、WTO法違反状態が続いていました。
そこでEUと日本は対抗措置をとっており、それが報復関税です。
ようやく2006年にバード修正条項は廃止されたのですが、その後もなぜかアメリカは分配を続けており、対抗措置も継続しています。
このたび、再度の延長を日本の財務省が決定したとのことでリリースがなされました。
国際通商は法律家にとってもあまりなじみがない分野ですが、各国の思惑から理屈の通らない理不尽なことが交錯しています。自由貿易協定が流行ってきてWTO体制による自由貿易の拡大が色あせつつある今日ですが、WTO体制もそれなりに機能していることを垣間見ることができます。