東京高裁、業務請負で就労して過労自殺した件で使用者と業務委託元のニコンに対する損害賠償を増額


労働契約に付随する義務として使用者は安全配慮義務を負いますが、この義務の不履行には労働者がうつ病になってしまった場合も含まることがあります。

さて、今日では非正規雇用で労働契約上の使用者の事業所とは異なる所で就業する労働形態が増えています。すると本来なら使用者の安全配慮義務違反で生じるようなことが、使用者ではなく派遣先などの就業場所で生じてしまうことが増えています。

そのような事例で使用者と派遣先を提訴している事例で控訴審判決が出ました。

ニコンなどの賠償増額、7000万円支払い命令 過労自殺訴訟(日本経済新聞2009年7月29日)

ニコンの工場に派遣された業務請負会社「アテスト」(名古屋市)の元社員、上段勇士さん(当時23)が自殺したのは過重労働によるうつ病が原因として、母親の上段のり子さん(60)が両社に計1億4000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が28日、東京高裁であった。都築弘裁判長は、両社に計約2488万円の支払いを命じた1審判決を変更。賠償額を約4569万円増額し、計約7058万円の支払いを命じた。

判決は、上段さんの自殺前の勤務状況について(1)時間外や休日労働をしていた(2)担当外の重い業務との兼務で心理的負荷を蓄積させていた――などと指摘。「自殺の原因は業務に起因するうつ病と推認できる」と判断した。

「製造業への派遣を禁止していた当時の労働者派遣法に反していた」と言及。ニコンの従業員には指揮・監督権限があったのに、過重労働で心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したと結論付けた。(07:00)

基本の確認ですが、直接の労働契約関係のない派遣先などに安全配慮義務違反の責任を問うなら直接の契約はないことから、不法行為構成にすることが考えられますが、判例は、安全配慮義務を雇用契約の当事者だけではなく「これに準じる法律関係」がある場合にも肯定しており、債務不履行構成をとっています。

債務不履行構成でも不法行為構成でも時効などを除くとそれほどの違いはないのですが、とにかく確認が必要です。この辺の拡大している契約責任は自衛隊の事件以来、一貫した態度であるように考えられます。

本件のニコンは労務の提供場所に過ぎないののでまさにこの問題であり、上記報道からはニコン注意義務を確定しており、それに反した事実と生じた結果との間の相当因果関係もきちんと認定していることが伺われます。

なお、労働契約と安全配慮菊義務違反の当事者がずれる場合については、建築請負の場合だけは元請が労災保険法上の使用者になることが定められていますが、その他については全く規定がないので上記のような債務不履行などの民法に立ち返っての構成になります。

労働者派遣がこれだけ広がってきており、建築請負ばかりでなくなってきている以上、労災保険法による法定内補償を広げることを考えてもいいかもしれません。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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