契約を解除した効果として、既履行の分については原状回復義務が生じますが、その原状回復義務は民法546条から同時履行の関係に立ちます。
第533条(同時履行の抗弁)
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
第545条(解除の効果)
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
第546条(契約の解除と同時履行)
第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
これが大原則ですが、このたび判例で例外的に信義則の観点から原状回復義務が同時履行の関係に立たず、解除した原告に対して被告が引き換え給付判決を求めることは許されないと判示した事件がありました。
最高裁判所第二小法廷平成21年07月17日判決 平成19(受)315 自動車代金等請求事件
事案としては、中古車の売買契約の解除です。
車種はシボレーなのですが、実は車台が二台の車の分が接合されたもので、事故車でよくやられるような細工によってできているのに、それが隠されていたという事案です。
買主は錯誤を理由として解除して売買代金の返還を求めて提訴したのですが、これに対して被告は、同時履行の抗弁権を行使、当該車の返還と車の移転登録を主張しました。
原因は同時履行の抗弁を容れて、引き換え給付判決を出したのですが、最高裁は、移転登録まで引き換え給付を認めたのは認められないとしました。
その理由は、既登録の複数の車を接合しているため、実は複数の登録番号を保有しているのに、それを売買に伴って一台分だけ登録している状況であるために登録を移転することが困難であるということを指摘しています。まず複数登録を解消しないといけないために仮にできるとしても困難であると言及しています。
よって、困難なこととの同時履行を求めることは公平を欠くとして、同時履行の抗弁権を主張して引き換え給付を求めることは信義則上許されないとしました。
かなり事案の特殊性が作用しているものであり、むしろこのような極端な場合でない限り、原状回復は同時履行にたつということが確認できるように思えます。