最高裁、担保不動産収益執行のもとで抵当権設定前の保証金返還請求権と賃料の相殺について判示


担保不動産収益執行は、抵当権を設定した不動産が賃貸されている場合に賃料に抵当権者がかかっていくというのが代表例です。過渡的に物上代位で賃料にかかっていくことが行われていましたが、立法した以上担保不動産収益執行に収斂していくべきとされています。

抵当権者が物上代位で賃料にかかっていく場合に大問題となったのが、賃料を実際には払わずに敷金など賃貸人(抵当権者から見れば担保権設定者)に対して差し入れた金銭の返還請求権と相殺を主張することが起きた場合の物上代位との優劣でした。

この問題とほぼ同じことが担保不動産収益執行でも起きまして、最高裁判決がでました。

最高裁判所第二小法廷平成21年07月03日判決 平成19(受)1538 賃料等請求事件

問題となっているのは建物です。

平成9年11月20日 賃貸借契約締結 保証金敷金交付

平成10年2月27日 抵当権設定

平成18年5月19日 担保不動産収益執行開始決定

平成18年7月5日 平成19年4月2日 賃借人が相殺の意思表示

上記のような経過をたどりました。

抵当権に基づく物上代位の判例から考えると、上記のような時系列ですと、抵当権設定よりも前に賃借人が債権を取得しているので、物上代位よりも相殺が優先される場合になります。

しかし原審は、相殺を認めず、担保権者の請求を認容しました。その理由として担保不動産収益執行開始決定以降は管理人に賃料債権が帰属するので、保証金返還請求権と賃料は相殺適状にないと判示しました。そうでないとしても、相殺の意思表示は管理人に対してしないといけないので本件では有効な意思表示がないとしました。

この原審の考え方から行くと、物上代位よりも担保不動産収益執行の方が担保権者から見た機能が強化されていることになります。しかし、最高裁はこの解釈を否定しました。

担保不動産収益執行の管理人の権限について以下のように、権利を行使する権限にすぎないと述べています。

管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属し
ているものと解するのが相当

よって、相殺は賃貸人に対してすることができるとしました。

すると規範は物上代位と同じになりますので、続いて、賃借人の債権の取得時期と抵当権の登記の時期を比較しています。結果、上記のような時系列ですので相殺を持って対抗できるとしました。

担保不動産収益執行は抵当権者の物上代位と近い効果になることが明らかになったわけですが、抵当権の公示がないうちに取得した債権なのに、担保権者が物上代位ではなく担保不動産収益執行を選択すると突然相殺が対抗できなくなるのは結論としてバランスを欠きますし、理論的にも収益執行をするのはあくまで抵当権者にすぎず、破産管財人等とは異なるという原理的なところから考えると最高裁の言うとおりだと思われます。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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