最高裁、株主代表訴訟で追及の対象となる取締役の責任には、取締役の地位に基づく責任のほか、取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると判示


会社法では責任追及の訴えという名前になっていますが、これは旧商法から引き継いでいる株主代表訴訟のことです。

この代表訴訟で追及するのは、「役員等の責任」となっています。旧商法では「取締役の責任」となっていましたが、取締役の責任追及の局面では同じ内容です。

さて、この取締役の責任の意義については従来から議論があり、二つの見解が対立していました。法律で定められた責任に限られるとする見解と、広く役員等が会社に対して負う債務全般が対象となるとする見解の二つです。

有力説と裁判例は、後者の全債務説をとっていました。

全債務説としてよく参照されるのが、大阪高判昭和54年10月30日高民集32巻2号214頁【会社法百選74】でして、これは会社の有する所有権に基づく登記移転請求権を代表訴訟で追求したもので、真正な登記名義の回復義務も追及の対象となるとしています。

この論点については判例は無かったのですが、このたび、最高裁が正面から判示をしました。

最高裁判所第三小法廷平成21年03月10日判決 平成19(受)799 所有権移転登記手続請求事件

この事件も上記の大阪高裁判決とほぼ同じ状況です。

会社が買い受けた土地の登記名義が取締役のものになっているために、株主が真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続きを代表訴訟で追及したものです。

原審は、有力説や裁判例とな異なり、代表訴訟で追及できるのは旧商法266条1項各号など商法が取締役の地位に基づいて負わせている責任に限られるとして却下したので、上告がされたものです。

最高裁はこれに対して、次のように一般論を述べています。

同法267条1項にいう「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。

理由としては旧商法266条に列挙されているものに着目しています。

【会社に対する責任】
第266条

左ノ場合ニ於テハ其ノ行為ヲ為シタル取締役ハ会社ニ対シ連帯シテ第一号ニ在リテハ違法ニ配当又ハ分配ノ為サレタル額、第二号ニ在リテハ供与シタル利益ノ価額、第三号ニ在リテハ未ダ弁済ナキ額、第四号及第五号ニ在リテハ会社ガ蒙リタル損害額ニ付弁済又ハ賠償ノ責ニ任ズ

第二百九十条第一項ノ規定ニ違反スル利益ノ配当ニ関スル議案ヲ総会ニ提出シ又ハ第二百九十三条ノ五第三項ノ規定ニ違反スル金銭ノ分配ヲ為シタルトキ

第二百九十五条第一項ノ規定ニ違反シテ財産上ノ利益ヲ供与シタルトキ

他ノ取締役ニ対シ金銭ノ貸付ヲ為シタルトキ

四 前条第一項ノ取引ヲ為シタルトキ

五 法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シタルトキ

3号では、取締役に対する貸付が入っており、「地位に基づくもの」に限られるというのに無理があること、取締役は会社との間で取引をした場合にもなお忠実に履行する義務を負うと解されることをあげています。

忠実に履行する義務というのは、取締役である以上、委託信任関係とは別の会社との取引でも、会社のために最善に行動する義務があるというような意味ではないかと思います。

よって、法定されている責任以外にも代表訴訟で追及できる責任を広げる判断を指示したことになります。会社法では、旧商法266条のようになったおらず、423条で任務懈怠という形で抽象的に一本化されていますが、それでもなお妥当する判断でしょう。

ただ、よく見ると有力説や裁判例をそのまま採用したわけではありません。

「取引債務」といっており、所有権に基づく所有権移転登記手続を請求した主位の請求に関する上告は棄却すべきとしており、所有権移転手続の委託と名義借用契約の終了に基づく所有権移転登記手続の請求である予備的請求の方の上告を認容して差戻しをしているからです。

取引債務に限られるという以上、債権的登記請求権でないと代表訴訟で追及することはできないということでしょう。

上記の大阪高裁判決は、登記回復義務の発生根拠を明示していないのですが、所有権に基づく所有権移転登記請求の場合も含んでしまうことになりそうです。この点において、この判例は新しい判示を行っているように思えます。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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