最高裁、原因関係のない振込みがあった場合、口座名義人が原則として払戻請求できると判示


誤振込みでも口座名義人と銀行との間に預金債権が成立するというのは有名な判例です。最判平成8年4月26日民集50巻5号1267頁【トウシン事件】
この問題と関連することが争点となった事件があり、最高裁判決が出ました。
最高裁判所第二小法廷平成20年10月10日判決 平成19(受)152 預金払戻請求事件
事案としては、老夫婦が自宅から預金通帳と印鑑が盗まれ、預金を払い戻されてしまったというものなのですが、その際の経緯が若干特異で、夫の定期預金が解約され、それが妻の普通預金口座に振り込まれて、その後払い戻されたというものです。
口座名義人の妻が銀行に預金の払戻を求めたところ、被上告人の銀行(三井住友銀行、払戻当時はさくら銀行)が、
①原因たる法律関係のない振込みを受けた口座名義人からの払戻請求は権利濫用である
②債権の準占有者に対する弁済として有効である
と抗弁したものです。
このうち控訴審が①を認めたので、上告受理申立てされたものです。
トウシン事件から最高裁は誤振込みでも預金債権が成立することを認めているので、東京高裁もこれを前提としつつも、原因関係がないなら返還のために保持するにとどまるとして払戻請求は出来ないとしました。
これに対して最高裁は、普通預金債権を保有する以上、限定する理由はないとして、原則、権利濫用とはいえないとしました。例外としては払戻の請求自体が著しく正義に反する場合とされており、振り込め詐欺で自分の口座に振り込ませて回収するようなことが該当するように思われます。
いくら預金債権が成立するといっても、不当利得でしかないのであるから、払戻請求をすることは不当だろうとした控訴審判決も納得できないこともありません。
しかし、銀行の立場で考えると、原因関係のある正当な預金なのか否かはまるで分からないので対処に困ることになりましょう。
よって最高裁の明瞭な立場にも相当な理由があると思われます。
①を否定したため、②の債権の準占有者への弁済の点を審理するために差し戻しがされています。
窓口払戻の件であるので、盗難カードによる払戻が補填される法律の適用はありません。
よって従来からの準占有者の法理の枠組みにのることになります。
細かい事実関係は確認していないので、準占有者に該当するのかはよく分かりませんが、今後も法廷闘争は続くことになります。
実はこの事件は発生当時はさくら銀行であったことからも分かるように、盗難にあってから相当期間が経過しています。
被害者がどういう人なのかは不明であるので、勝手な想像に過ぎませんが、お年寄りが蓄えを取り戻すために何年も法廷で争っているというのは大変なことだなと思います。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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