最高裁、簡裁に管轄がある事件で地裁に訴訟提起され、移送申立てがされた場合に、却下する判断基準を判示


地裁と簡裁は訴額で管轄が分かれています。
140万円までの事件だと、簡易裁判所の管轄になります。
これを事物管轄といいます。
これは裁判所の特性というか能力的なものを念頭にして分けているものです。

一方で、簡易裁判所に管轄を合意することも当然できます。
合意管轄は一般的に企業の所在地ということで東京地裁にすることが多いですが、定型的に額が小さい契約などの場合は簡易裁判所にすることも多いです。

この管轄を合意している事件が実際に、事物管轄で線引きしている140万円を下回っているなら問題ないのですが、高額にもかかわらず、簡裁に合意管轄があるときに問題が生じます。

そのようなことが問題となった事件で最高裁が判断を示しました。

最高裁判所第二小法廷平成20年07月18日決定 平成20(許)21 移送申立て却下決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件

そもそもの事件は、いわゆるサラ金の過払い金返還請求です。しかし消費貸借契約に簡易裁判所に管轄を合意する条項が入っていたため、貸金業者が簡裁への移送を申し立てたという事件です。

返還を請求した過払い金は664万円を超えており、かなりの高額になっています。簡易裁判所が扱うには大きな事件になっているのは確かです。

関連する条文は16条にあります。

第16条(管轄違いの場合の取扱い)
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。
2 地方裁判所は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、前項の規定にかかわらず、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることができる。ただし、訴訟がその簡易裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合は、この限りでない。

上記の2項から見る限り、地裁で審理できますし、但書には簡裁に合意管轄をしている場合は、移送しないといけない専属管轄の例外であることが分かるので、地裁で審理して当然ではないかと思えます。

しかし、問題となっているのは移送申立てを却下する理由です。
16条2項は「できる」としているので、どういうことを考慮して判断するのかが問題となっているわけです。

事件が大きいことを理由にしてよさそうに思えますが、一方で17条には移送できる場合
の考慮事項が言及されている規定があるため、そこにあるものに限られるのではないかと考えることもできるわけです。

第17条(遅滞を避ける等のための移送)
第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる。


原々審は、事件が大掛かりであることを端的に指摘して移送申立てを却下したのですが、原審は、17条の「訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」に限られるとして、そういう事情はないとして移送を認めました。

これに対して最高裁は、17条にあるような事由に限られず、地裁で審理することが合理的であるかを広く考慮してよいとしました。
「地方裁判所の合理的な裁量にゆだねられて」いるとしています。

本件は、簡易裁判所に専属的合意管轄をした場合でしたが、判示はこれに限られず、簡易裁判所に管轄があるものの地方裁判所に訴えが提起された場合を広く含む内容となっています。

簡裁は数が多く設置されていますから、とんでもなく遠隔地の簡易裁判所に合意管轄をしているのでなければ、地理的には近い間での移送をするかしないかという問題になります。
よって17条にあるような事由が満たされて移送される場合はあまり考えられなくなります。それよりは、簡裁で扱うのに相応しいものかという点を考慮する方が妥当でありましょう。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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