NTT企業年金訴訟第一審判決の検討


控訴審判決が出たところなので今さらなタイミングですが、企業年金の減額をめぐる訴訟として著名なNTT企業年金事件の第一審判決について概観しようと思います。
控訴審判決はまだ手に入りませんが判断がほぼそのままのようですので、控訴審判決が出たという機械を捉えて、入手可能なものを検討しようというものです。
東京地判平成19年10月19日判時1997号52頁
この事件は、NTTが企業年金の規約の変更について厚生労働大臣の承認を求めたところ、当該規約変更は給付の減額にあたり所定の給付減額の場合に必要な要件を要件を満たしていないとして承認をしない処分がされたことの取り消しを求める取消訴訟です。
当該規約変更によって、給付の減額を受けるNTTの退職者が被告国側で補助参加しています。
規約の変更内容は、大きく分けて予定利率の引下げと給付利率の引下げの二点からなっています。
予定利率の引下げは、運用益が上がらないことを意味するわけですが、給付額は固定的ですので、掛け金の引き上げに直結します。これは将来のもらうことになる人に関係する内容ということになります。
これに対して給付利率の引下げは、現在受給中の分の利回りを引き下げるものですので、掛け金を納め終わっている人が対象になります。
企業年金は法制度の変更があり、確定給付企業年金法が規律しています。
そのもとで、本件の規約変更が許されるかということが問題となります。
本件における争点は4点でした。
①給付減額の規約変更に、経営悪化等を要求する確定給付企業年金法施行規則は、確定給付企業年金法の委任の範囲を超えるか。
企業年金は、規約型と基金型がありますが、本件のような規約型では規約の変更について法5条と施行令4条に要件が定められています。それを受けて施行規則でさらに詳細な定めをおいているわけですが、施行規則で経営悪化などの内容になっています。
これは委任の範囲を超えるかが争点となりました。
何が背景にあるかというと、多数決で同意を取ったのなら変更してもいいはずであり、内容について行政が過剰に規制するべきではないということです。
これだけですと、不当な意見に聞こえますが、柔軟な制度設計ができるようにということが、法改正の目的の一つにあげられていましたので、根拠のある見解ではあります。
確定給付企業年金法
(規約の承認の基準等)
第五条 厚生労働大臣は、第三条第一項第一号の承認の申請があった場合において、当該申請に係る規約が次に掲げる要件に適合すると認めるときは、同号の承認をするものとする。
一 前条各号に掲げる事項が定められていること。
二 前条第四号に規定する資格を定めた場合にあっては、当該資格は、当該実施事業所において実施されている厚生年金基金その他政令で定める年金制度及び退職手当制度(第十二条第一項第二号において「企業年金制度等」という。)が適用される者の範囲に照らし、特定の者について不当に差別的なものでないこと。
三 第二十九条第一項各号に掲げる老齢給付金及び脱退一時金の支給を行うために必要な事項が定められていること。
四 規約の内容がこの法律及びこの法律に基づく命令その他関係法令に違反するものでないこと。
五 その他政令で定める要件
確定給付企業年金法施行令
(規約型企業年金の規約の承認の基準に関するその他の要件)
第四条 法第五条第一項第五号(法第六条第四項において準用する場合を含む。)の政令で定める要件は、次のとおりとする。
一 実施事業所に使用される被用者年金被保険者等が加入者となることについて一定の資格を定める場合にあっては、当該資格は、加入者がその資格を喪失することを任意に選択できるものでないこと。
二 加入者等の確定給付企業年金の給付(以下「給付」という。)の額を減額することを内容とする確定給付企業年金に係る規約(以下「規約」という。)の変更をしようとするときは、当該規約の変更の承認の申請が、当該規約の変更をしなければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由がある場合において、厚生労働省令で定める手続を経て行われるものであること。
確定給付企業年金法施行規則
(給付減額の理由)
第五条 令第四条第二号の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。ただし、加入者である受給権者(給付を受ける権利(以下「受給権」という。)を有する者をいう。以下同じ。)及び加入者であった者(以下「受給権者等」という。)の給付(加入者である受給権者にあっては、当該受給権に係る給付に限る。)の額を減額する場合にあっては、第二号及び第三号に掲げる理由とする。
一 確定給付企業年金を実施する厚生年金適用事業所(以下「実施事業所」という。)において労働協約等が変更され、その変更に基づき給付の設計の見直しを行う必要があること。
二 実施事業所の経営の状況が悪化したことにより、給付の額を減額することがやむを得ないこと。
三 給付の額を減額しなければ、掛金の額が大幅に上昇し、事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため、給付の額を減額することがやむを得ないこと。

四 法第七十四条第一項の規定により規約型企業年金(同項に規定する規約型企業年金をいう。以下同じ。)を他の規約型企業年金と統合する場合、法第七十九条第二項の規定により事業主が給付の支給に関する権利義務を承継する場合又は法第八十一条第二項の規定により事業主が給付の支給に関する権利義務を承継する場合であって、給付の額を減額することにつきやむを得ない事由があること。
五 給付の額を減額し、当該事業主が拠出する掛金のうち給付の額の減額に伴い減少する額に相当する額を事業主掛金(確定拠出年金法(平成十三年法律第八十八号)第三条第三項第七号に規定する事業主掛金をいう。)に充てること又は法第百十七条第一項の規定により、給付に充てるべき積立金(以下「積立金」という。)の一部を、実施事業所の事業主が実施する企業型年金(確定拠出年金法第二条第二項に規定する企業型年金をいう。以下同じ。)の資産管理機関(同条第七項第一号ロに規定する資産管理機関をいう。以下同じ。)に移換すること。
しかし、立法過程においても受給権の保護がいわれており、この点の主張は退けられました。また実質的に、多数決で反対者の利益を処分してしまうことは不当であるということが述べられています。
これは労働協約の不利益変更などでも言われることであり、共通の発想に立っていると思われます。
規定されている内容は無効ではないとしたので、その後であてはめが続いています。
この当てはめの各項目が残りの3つの争点となっています。
②本件規約変更は給付減額に該当するか
③経営の悪化によって給付減額がやむをえない場合に該当するか
④事業主が掛け金を供出することが困難になると見込まれるため給付減額がやむをえない場合に該当するか
②については、給付減額に該当すると端的に認めています。
実は、10年もの国債に連動する金利にするという規約変更のため、給付減額になるかは一概には言えないと原告は主張しているのですが、受給時期によって異なりますが7%や4.5%だった利率が、国債連動になってしまったら現状では明らかに減額になってしまうからです。
③と④に関しては、報道でもよく触れられたところですが、NTTの業績はそこまで悪化していないという認定がされています。
報道からみると、企業が大幅なリストラをしたために業績は一息ついており、そこを捉えて企業年金の減額が認められなかったというように思われますが、全体を概観すると、多数決で反対者の利益を奪ってしまうことは認められないという点も重要であるようです。
かなり事例判断的な色彩も大きいですが、どの企業も年齢構成などは似た構成になっているでしょうから、参考になる点も多い事例ではないかと思われます。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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