東京地裁、個人がネット上で行ったラーメン店の中傷書き込みが名誉毀損罪の成立を認めず


名誉毀損というと民事の不法行為と刑事の名誉毀損罪で問題になりますが、刑事の方で注目すべき裁判例が出たと報道されています。
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ラーメン店中傷書き込みに無罪、「ネット名誉棄損」新判断(日本経済新聞2008年3月1日)
インターネットのホームページ(HP)にラーメンチェーン店を中傷する記載をしたとして、名誉棄損罪に問われた会社員、橋爪研吾被告(36)の判決公判で、東京地裁の波床昌則裁判長は29日、「記載内容は真実とはいえないが、インターネットの個人利用者が求められる水準の調査は行っていた」と指摘し、同被告を無罪(求刑罰金30万円)とした。
 波床裁判長は個人がHPやブログなどに意見や批判を書く場合、「マスコミなどと同じ基準で名誉棄損罪に問うのは相当でない」と判断。「故意に事実でないことを発信したり、真実かどうか確かめないで発信した場合に初めて名誉棄損罪に問うべき」との新たな考え方を示した。
 判決はネットの特性について言及し、(1)誰でも簡単にアクセスできる(2)意見や批判に容易に反論できる(3)個人が発信する情報の信頼性は低いと受け止められている――ことなどを例示。発信者と受信者の立場が固定されるマスコミでの要件をそのまま適用するのが難しいとの判断を示した。(29日 23:01)
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名誉毀損罪の条文からは、公共の利害に関する事実で、真実であると証明されたときのみ免責となることになりますが、判例は真実性の誤信といいますが、真実でなくても一定の条件があれば免責を認める立場をとっています。
第230条(名誉毀損) 
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
〔昭二二法一二四・平三法三一第一項改正〕
第230条の2(公共の利害に関する場合の特例)
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
〔昭二二法一二四本条追加〕
最大判昭和46年6月25日刑集23巻7号975頁【夕刊和歌山時事事件】
「刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
こうして真実でなくとも名誉毀損罪にならない場合はありうるのですが、これが認められるための「相当の理由」は、判示から見る限り、かなりのレベルの調査を要求するように見え、実際にはなかなか免責されないというのが批判のあるところでした。
今回のケースでは、個人の場合における相当の理由を認める場合の程度を、マスコミよりは低くしたというものです。
判決全文が分からないのでなんともいえないのですが、対抗言論についての言及があるところから憲法理論を念頭にしているようです。
高橋教授の説に近いように思えます。
さて、本件では民事上の名誉毀損は成立が認められ損害賠償が命じられて確定している模様です。
民事上の名誉毀損の成立要件も、上記の刑事の要件にならって、真実性の誤信に相当の理由があるときは故意過失が欠けて不成立とするのが通説的な立場です。
要件的には似ていますが、判断が分かれてしまったことになります。
国家が刑事罰をもって抑制すべきかという刑事と私人の利益が問題となる民事では別ですので、分かれたことが直ちにおかしいということにはなりません。
刑事罰の登場となると行き過ぎとは感じでも、軽率な言論によって損害が生じた場合に故意過失がないとして賠償を認めないのは認めがたいのではないでしょうか。
準則自体は似たものになるにしても具体的な故意過失の判断で、この判決の結論と同じ結論が民事にも適用されるかというと難しいのではないでしょうか。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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