東京地裁、平成16年税制改正の遡及適用を認める


租税法で必ず学ぶ基本中の基本である憲法84条所定の租税法律主義ですが、解釈から導かれる租税法律主義の内容の一つに、遡及立法の禁止があります。
金子宏名誉教授は、納税者に利益に遡及するなら良いが、不利益に遡及するものは原則許されず、これは憲法84条に含まれるとされています。
しかし、一切の例外を認めないわけではなく、所得税や法人税のような期間税では、不利益遡及が許されるかは、年度開始前に一般的にしかも十分に予測できたかどうかによるとされています。
この点について最高裁判例はありませんが、同趣旨の裁判例がいくつかあります。
そのうちの一つとして、沖縄生鮮魚介類事件の判示を以下に引用しておきます。
福岡高裁那覇支部判昭和48年10月31日訟月19巻13号220頁
「租税法律主義の見地からみれば、特定の物品を過去に遡つて課税の対象とすることは、法律の改正がすでに予定されていて、納税者側にもそのことが予測され、法的安定性を著しく害しないような場合にかぎつて許されるものと解すべき」
このように解されている遡及立法ですが、これが正面から問題となる税制改正が平成16年に行われていました。
平成16年3月26日に成立した租税特別措置法の改正法を1月1日に遡及させたのがそれであり、これによって土地建物等の譲渡損失が他の所得と損益通算できなくなりました。
この改正法の内容は、前年12月後半に公表されていました。
よって、上記の準則からいくと、微妙であることがわかりまして、訴訟が起こされる事態になっています。
複数訴訟が提起されているのですが、福岡地裁では違憲とされる判決が出ています。
一方、このたび東京地裁は租税法律主義には反しないとして請求を棄却する判断が出ました。
司法の判断が分かれる事態になっていますが、これは上記のような事情によるものと思われます。
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税改正、遡及適用は合憲・東京地裁、売却損控除認めず(日本経済新聞2008年2月15日)
 2004年4月施行の改正租税法を1月にさかのぼって適用し、改正前に認めていた土地売却損の所得控除を認めないのは違憲だとして、東京都などに住む4人が国税当局に1600万―4900万円の所得税還付を求めた訴訟で、東京地裁(大門匡裁判長)は14日、「納税者に一定の不利益はあるが、遡及(そきゅう)適用に合理的な必要性がある」として原告の請求を棄却した。
 同法の遡及適用を巡っては福岡地裁が1月、「法改正は国民に周知されておらず、遡及適用は課税への予測を害して経済生活の安定性を損なうため、租税法律主義に反し違憲」としており、司法判断が分かれた。
 判決理由で大門裁判長は「所得税は1―12月の期間税で、同じ年の土地売買によって所得税の取り扱いが異なると不平等が発生する」と指摘。さらに「税制改正大綱は03年12月に公表され、納税者も適用を予測できた」と述べ、04年1月への遡及適用を合憲とした。(14日 23:40)
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前年に公表されていたといっても12月後半の話で、不動産の売買ですから、そうそう簡単に出来るわけではありません。よって期間としては難しいかもしれません。
もっとも税制改正のリリースがすべてではなく、十分かつ一般的に予測することが出来たかが判断を分けるので、あとは事実認定の問題になってしまいます。
かなり微妙であるのは確かなのですが、租税法律主義に反するということも非常に重たいことですので、そうそうできることではありません。
福岡の方は当然控訴しているでしょうから、いずれにせよこの問題は上級審の判断を仰ぐことになるのではないでしょうか。

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About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

2 thoughts on “東京地裁、平成16年税制改正の遡及適用を認める

  1. 租税特別措置法

    東京地裁、平成16年税制改正の遡及適用を認める平成16年3月26日に成立した租税特別措置法の改正法を1月1日に遡及させたのがそれであり、これによって土地建物等の譲渡損失が他の所得と損益通算できなくなりました。 この改正法の内容は、前年12月後半に公表されていました。 …..

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