近年、会社法制に経済産業省の関与が非常に目立つのですが、同じく経済産業省が、東京証券取引所に複数議決権を有する種類株式の上場を容認するように求めることが明らかになりました。
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複数議決株の上場解禁を・経産省、安定経営促進へ提言(日本経済新聞2007年12月9日)
経済産業省は株主が1株で複数の議決権を行使できる「複数議決権株式」の上場を容認するよう東京証券取引所に求める。創業者ら経営陣が複数議決権株式を保有し株主総会の議決権の大半を握ることで、長期的視野から安定的経営をできるようにする狙い。経営陣以外の株主の意向にも配慮するため、複数議決権株式の上場ルール策定も提言する。
同省の「企業価値研究会」(神田秀樹・東大大学院教授)が近く同株式の発行解禁を柱とする提言をまとめる。議決権がない代わりに株主に配当を優先して支払う「無議決権株式」なども含め、1株につき1議決権の普通株と異なる「種類株」の発行と上場を原則認めるよう求める。(07:02)
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さて、複数議決権のある種類株式というのは会社法上可能でしょうか。
第308条(議決権の数)
株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。
2 前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。
上記のように、一株に複数議決権があるような株式は、明文に反するので認められません。
では、上記報道は何かというと、種類株式ごとに異なる単元を設定すれば、事実上、複数議決権株式と同じになるので、それをさしているわけです。
欧米では種類株の上場が認められているのですが、それはさておくとして、複数議決権株式を上場会社が有するというのはどうでしょうか。
単純に考えるなら、複数議決権株式は買収防衛策になりますから、支配権の移転が起こりにくい会社ということになります。すると、昨今の事情からはありがたいような気もしますが、支配権が動きにくい会社というのはガバナンスが働かない会社ということにもなるので、経営陣の監視が十分にできないことになりかねません。
ただでさえ日本の会社にはガバナンスに疑問符がつく傾向がるのに、そういう会社を生みかねない方向に動いてよいのか、大いに議論の余地があると思われます。