執行役員制度というのは、取締役に代わる制度というニュアンスのある実務的な存在ですが、執行役員に対しても当然、退職慰労金が支払われます。
本件で問題となった三菱自動車は、ご存知と思いますが不祥事によって会社の業績が極めて悪化、これに対応して16年度と17年度に退任した執行役員に対して退職慰労金を見送るという措置を講じました。
それによって退職慰労金をもらえなかった元執行役員が会社を訴えたのがこの訴訟です。
執行役員に対する退職慰労金に関して判示した初の最高裁判決です。
最高裁判所第二小法廷平成19年11月16日判決 平成19(受)478 退職金請求事件
原告は、執行役員時に退職慰労金の支払が合意の内容となっていたとして、支払を求めたのですが、最高裁は上告を棄却して、請求を認めなかった原審判決を是認しました。
さて、判旨は、事実の総合判断として結論を導いています。
執行役員の退職慰労金規則が代表取締役の決済で改定される内規であり、執行役員に一度も示したことがなかったのが決め手に見えますが、その他にも業績悪化によるもので、他の執行役員や取締役も減俸になったことにも言及がされています。
ついでに従業員としてそのまま勤めたよりも、多くの報酬は得ていることにも言及があります。
多分、全部ひっくるめて結論に結びついたのだろうと思いますが、実務的には、内規にしておけばいいという理解になるかもしれません。
会社法は一般的に、金さえ払ってさようならという行動原理があり、これは株主以外の機関でも妥当するところです。
会社と争うような役員は、どこも取り手がないので、金をもらっても、実質的には会社の勝ちというわけなのですが、この件では、その金が問題となっており、しかも、会社一筋の人生であったわけで、会社を渡り歩くという筋の話ではありませんでした。
よってこういった報酬関係の事象は相当バイアスがかかっているものばかりなので、判例に表れたものだけみていると、実際と異なった理解をしてしまうかもしれませんね。