松本引越センター会長が自己振出の手形に会社名義で裏書をしたとされる問題が発覚


話題となってからしばらくたっていますが、松本引越センターの手形裏書事件とその後の会長の代表取締役解任と警察への告訴などの会社の対応についてまとめて取り上げます。
事実関係については、報道に依拠するしかないのですが、現時点ではなぜか大手紙のサイトからはこの件に関しての報道についての記事は消えてしまっており、スポーツ紙のサイトにわずかな残っているのみです。これが何を意味するのかは別論ですので、とにかく、報道された事実に依拠して法的にどうであるのかについて検討してみようと思います。
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松本引越センター会長が無断で手形裏書(日刊スポーツ2007年9月25日)
 松本引越センター(大阪府四条畷市)は25日、創業者の松本博文会長(72)が個人で計6億円の手形を発行した際、同センターに無断でグループ会社2社の裏書保証をしていたと発表した。
 岡田邦夫社長によると、松本引越センターのグループ各社は手形の裏書保証を禁じている。一部が金融業者に渡ったが、処分されたため実質的な被害はなかったという。岡田社長は「手形の発行は当社と無関係。信用問題であり刑事告訴も辞さない。解任も検討する」としている。
 松本引越センターによると、発行されたのは1億2500万円の手形4枚と1億円の手形1枚。1億2500万円4枚にはグループ会社2社の裏書保証があり、1億円の1枚にも裏書があったとみられる。
 松本修治前社長が今月7日に自殺した後、報道機関から、手形のコピーが出回っているなどの情報が寄せられ調査したところ、会長や会長の知人が関与を認めた。
 岡田社長は「会長は2社の代表取締役を務めており、社員などを使い裏書きしたとみている」と話している。
 会長の手形のうち、1億2500万円1枚と1億円1枚が、会長の知人2人を通じ業者に持ち込まれた。この2枚は数日前に焼却処分されたという。残りは流通せず、会長から回収した。
 会長の知人は松本引越センター執行役員などと名乗っていたが、同センターには執行役員の役職はなく、会長が肩書を使わせていたとみられるという。
証券偽造で松本引越S元会長の告訴状(スポーツニッポン2007年10月3日)
 松本引越センター(大阪府四条畷市)の松本博文元会長=1日付で解任=が個人で計6億円の手形を振り出していた問題で、社印を偽造するなどして無断で裏書保証の名義人にされたグループ会社は3日、元会長を有価証券偽造と特別背任の両容疑で大阪府警四条畷署に告訴状を提出した。同署は内容を検討したうえで受理するか決める。
 同センターによると、松本元会長が振り出した手形は計5枚。グループ会社の偽造印が押され、取締役会の承認も得られてなかったという。
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まず会社法上の問題ですが、会社法では362条に取締役会の権限が列挙されており、代表取締役に委任することができないことを明示しています。ここにあるものは抽象的なので、手形の裏書が該当するのかどうかはよく分かりません。
金額の多寡によって影響が変わるからですが、一般的に会社内部では内規があると思われます。
上記報道の通りだとすると松本引越センター(正確には関連会社)は、内部的に手形裏書を禁じているようですので、ひとまず代表取締役に手形裏書の権限はないと考えられます。
すると代表取締役会長は、内規に反した行動をとったことになるので、善管注意義務違反ということになるかと思います。これは任務懈怠ということになりますから、会社に損害が生じていたら、423条1項より会社に対して損害賠償責任が生じますが、本件では損害は結局生じていないようなので、ここまでは行かないと思われます。
しかし、以上の経過を踏まえてのことと思いますが取締役会は、会長の代表取締役を解職しています。
上記の報道のうち下のほうによると、解職後、会社は警察に告訴を行ったとされていますので、刑事上の問題についても検討してみます。
まず特別背任ですが、会社法960条によると特別背任の構成要件には、構成要件的結果として財産上の損害が定められています。
本件では、一時的に保証債務を負ったような感じになっていますが、結果としては損害は未然に防がれたので、該当しなそうです。
ただ、962条より、特別背任は未遂処罰ができるのでこちらでは可かもしれません。
次に刑法162条の有価証券偽造について検討します。
報道によると、手形裏書が禁止されているとされている以上、権限なく手形裏書が行われ、偽造された社印が押印されたということになりますが、これが有価証券偽造罪の構成要件に該当するかが問題です。
まず手形についてですが、有価証券偽造罪でいうところの有価証券に当然該当するとされているので問題ありません。
裏書のような付属的証券行為の有形偽造について、判例は162条2項の虚偽記入にあたるとしており、学説は162条1項の偽造だとしています。適用法条が違うだけで区別にあまり実益はありませんが、構成要件該当性は満たされると思われます。
しかし、有名な論点として、一般的包括的権限を有するものが不正に有価証券を作成したときの有価証券偽造罪の成否という問題があります。
というのは、権限を有していそうな人が不正に有価証券を作成した場合について判例が錯綜していて一貫性を欠いているように見えるのと、不正に作成された有価証券の無効を私法の法理から行くと取得者に対抗できない場合でも、有価証券偽造罪が成立することを判例は肯定しているためです。
この点は、判例は内部的制限によって実質的に作成権限があるか否かで判断を分けていると解されます。
実際に権限があるなら、権限濫用にすぎず不成立
実際に検眼がないなら、権限逸脱で成立
と分かれるわけです。
有価証券偽造罪の保護法益は、有価証券の公共的信用なので、私法分野の法理で結果として無効を対抗できないということになっても、それまでに十分信用は害されているわけで、判断のメルクマールは、作成者側に注目して、不正目的だろうが権限あるものの意思にもとづくかで決されるわけです。
よって権限がないなら有価証券偽造罪成立ということになると思われます。
本件では手形裏書は禁じられていたとされていますので、成立しうるのではないかと思われます。
もっとも、本件では、偽造した社印が用いられているので、権限があったとしても、無形偽造になるのではないかとも思われます。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

One thought on “松本引越センター会長が自己振出の手形に会社名義で裏書をしたとされる問題が発覚

  1. 会社法 取締役の解任

     取締役の解任 取締役を解任する方法は大きく分けて2つある。  その1つが①解任決議による場合で、もう1つが②解任の訴えによる場合となる。(1)解任決議による場合 取締役と会社との関係は委任関係なので、各当事者がいつでも契約を解除できるはずだが……

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