村上ファンドインサイダー取引事件と日本織物加工株インサイダー取引事件


ライブドアによるニッポン放送株取得をめぐり、村上ファンドの村上世彰前代表が証券取引法違反(インサイダー取引)の罪に問われた刑事裁判の判決が7月19日にありました。

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村上被告に懲役2年、追徴金11億円余 東京地裁判決(朝日新聞2007年7月19日)

ニッポン放送株をめぐり証券取引法違反(インサイダー取引)の罪に問われた村上ファンド前代表、村上世彰(よしあき)被告(47)に対し、東京地裁の高麗(こま)邦彦裁判長は19日、懲役2年、罰金300万円(求刑懲役3年、罰金300万円)の実刑判決を言い渡した。判決は起訴事実を全面的に認め、「一般投資家を欺き、証券市場の信頼を著しく損なった」と指弾。「ファンドマネジャーというプロによる犯罪という重大性」から実刑が相当とした。
(略)
判決は、検察側が提出した証拠について、「村上ファンドとライブドア間で交わされた膨大なメールなど様々な客観証拠が存在しており、事実認定の基礎となる」と評価した。そのうえで、「04年11月8日の会議で同放送株の3分の1を取得する計画を村上前代表に伝えた」としたライブドア前取締役の宮内亮治被告(39)らの証言を「信用性が高い」と認定した。
次に、伝達された情報が証取法上のインサイダー情報にあたるかを検討。弁護士がインサイダーに問われた事件の99年6月の最高裁判例をもとに、「(計画に)実現可能性が全くない場合は除かれるが、あれば足り、その高低は問題とならない」と示して、当時のライブドアの計画がインサイダー情報となる「決定」にあたると明確に認めた。さらに、前代表の自白調書などの証拠から、その決定が前代表に伝達され、前代表に実現可能性の認識もあったとしている。
(略)
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インサイダー取引は、証券取引法に規定があり、会社関係者によるものが166条、公開買付関係者によるものが167条に定められています。

インサイダー取引規制とは、会社にかかる重要事実を知った上で当該株式を取引したら該当するという形式犯です。
よって、重要事実足りえる決定があったかということが問題となります。
というのは、権限のない人の意思や実現可能性がない段階での情報だったら、投資判断に与える影響がなく、意味がないとも考えうるからです。
すると、知った時期がずれることになりかねず、取引をしたのと知ったことの順番が入れ替わることがありえます。
そのためいつ知ったのかが重要な点になるわけです。

そこで、この点に関しては、「決定する機関の意義」と「決定の意義」として問題が整理されています。

上記引用にあるとおり、この判決では、決定の意義について、実現可能性があれば足り、その高低を問わないという判断を示しました。
よって実現可能性があまりない段階での情報でも、知った上で取引をすれば、インサイダー取引に該当するわけです。

これは条文の文言には忠実ですが、かなり規制が広汎にわたる感じを受けます。
実害がないものまで規制しているように見えるからです。

このためこの判決後、日本経済新聞では、この判決が市場関係者に動揺を与えているという趣旨の記事がいくつか載りました。
日常のやり取りの中で重要事実を知ったら、その会社の株式の取引をおよそできなくなってしまうように思えるからです。

しかし、日経にいうところではインパクトのあるこの判決ですが、最高裁のウェブサイトの最近の下級審判例のところには掲載されていません。
それは、多分裁判所としては、この判決は、上記朝日新聞でも言及がある最高裁判例にしたがって出したものだと判断しており、それほど新規の重要性があるものではないと判断しているからだと思われます。

過去の最高裁判例というのは、通称「日本織物加工株インサイダー事件」と呼ばれるもので、刑集に登載されています。

最高裁判所第一小法廷平成11年06月10日判決 平成10(あ)1146 証券取引法違反被告事件(刑集第53巻5号415頁)

こちらは、会社の監査役によるインサイダー取引なので166条の事件です。
決定の意義に関して、
・機関は実質的に意思決定をできるのであれば足りる
・決定には、実現可能性の多寡を問わない
という二点の判示を行いました。

これをそのまま適用したのが7月19日判決なのですが、市場関係者を困らせてもおかしくない判示自体はすでに平成11年になされていたというのが重要です。

平成11年の最高裁判決には、規制の対象が広がりすぎるとして批判がありました。
村上ファンドの行動の評価は別として、今回の判示に同じ批判をするのは自然な論理だと思われます。

最高裁の解釈の根拠は、立法趣旨を汲んだところにあります。
最高裁は、可能性の多寡に関係なく、投資判断に影響を及ぼすことはありうるからとしています。

そもそもの立法の趣旨から考えても、市場の公正への信頼を保つのが証券取引法の目的である以上、実際の実現可能性の多寡にかかわらず、一部の公開されない情報によって取引をする勢力がある市場は一般投資家の信頼を得られないとするのは考えうることです。

また、実現可能性を加味した重要な事実のみを規制の対象とすると、刑罰法規としてはあいまいに過ぎることになるでしょうし、実際の摘発も極めて難しいことになるでしょう。
よって、立法の仕方と裁判所における判断としては致し方ないと思われます。

一方で、こうなると相手に無理やり重要事実を告知することでインサイダー取引になるように仕向けるという究極の買収防衛策が取れることになります。
これは以前から言われていたことですので、7月19日の判決によって浮上したわけではないのですが、改めてクローズアップされたのは確かです。

まさに進退両難といったところで難しい問題になっています。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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