スティール・パートナーズ対ブルドック事件抗告審とユノカル判決


すでに一流の実務家によって、スティール・パートナーズ申立ての仮処分事件の抗告審決定にはコメントがなされていますので、今さら改めてやるのも難であるということで、アメリカにおける買収防衛策の先例であるユノカル事件と比較して読んでみようと思います。
あと終わりに、落穂ひろい的な論点をちょっと取り上げようと思います。

有名なユノカル判決ですが、これは取締役が買収防衛策をとる際にその判断に際して経営判断原則が適用される範囲を示したものです。

Unocal v. Mesa Petroleum, 493 A.2d 946 (Del. 1985)

事の発端は、ユノカルに対して、ユノカルの株主でもあるメサから公開買付の提案がなされたことに始まります。
この公開買付は非常に巧妙にできており、社外株式(議決権のある株式と見て問題ないです)の37%を一株あたり54ドルで取得を図り、これが成功したら残りの株式は一株当たり54ドルの価値を持つとされる証券と引き換えにして、取得しようとしたものです。

ユノカルの考えるところでは、同社株式の一株あたりの価値は54ドルを超えていましたが、これは、最初に現金での買収をおく事で、株主が遅れて証券との交換になって価値の下落によって損をしたら大変だという焦りを生むように仕組んだものでした。

これに対して、ユノカルはメサ以外の株式を74ドルで72ドルの債務証券と交換で自社株買いをして対抗を試み、その差止めを求めたのが本件です。

アメリカでは株主平等原則というものはありませんが、取締役には信認義務があり、株主に対しては信託法理で言うところの受託者としての義務が生じ、その利益を害さないようにしなければなりません。
メサも株主であるため、なぜ、義務を負う取締役会が差別扱いをしてよいのかが問題となるわけです。

この事件で、デラウェア州最高裁は、有名なユノカル基準を定式化して、取締役会の行う買収防衛策としての適法性について判示しました。
ユノカル基準とは、
1、防衛策の適切性の立証責任は取締役会に転換される(これは差止め事件であるのに債務者側が立証責任を負うという意味です)
2、①会社に脅威があると信じたことについて合理的理由があること、②防衛手段が脅威に対して相当であること、この①②を取締役会が立証すると、経営判断の原則が適用される(経営判断が尊重される)というものです。

さて、本件においては、特殊事情がありました。
メサは、グリーンメーラーで有名で小糸製作所にもやってきたブーン・ピケンズの会社であったことと、上記のように提案に強制的な要素があったということでした。

このような事実関係から、メサの脅威を除くためには、差別扱いをしないと援助することになってしまうため、違法ではなく不合理ではないとして、株主が破滅的な公開買付をする場合にその他の株主と会社を保護する義務を認めて買収防衛策を許容したのでした。

さて、このような、ユノカル事件とスティールとブルドックの件を比べると以下のような違いがあります。

●問題となる点
・信認義務か、株主平等原則と不公正発行か否か

●適法に作用しそうな点
・ブルドックのケースでは、スティールにも経済的な対価は交付するので差別扱いの度合いは低い
・総会決議を取っており、取締役会の義務だけが問題となる状況ではなくなっている

●違法に作用しそうな点
・スティールは、これまでの経緯からは少なくとも、会社に買取の要求をするメサのような狭義のグリーンメーラーではない
・公開買付の提案は、メサのような安値で売ることを強要するものではなく、比較的合理的な対価が提案されている

東京高裁平成19年07月09日決定 平成19(ラ)917 株主総会決議禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件

抗告審は突き詰めると、スティールが経営に対するビジョンを示さないし、これまでの経緯から濫用的買収者であるという一点につきるようです。
ユノカル基準から考えるとこういった事実を前提に、スティールに立証させるというよりは、取締役会の判断は合理的かという検討になるかと思います。

ユノカル基準が取締役会に立証責任を負わせたのは、信認義務を負う相手に、株主以外のステークホルダーが入ること(抗告審決定も「会社は社会的存在である」の下りではそれに言及しています)と買収者を含めた株主すべてが入ることのバランスからでした。
というのは、経営判断原則というのは、経営判断を尊重するという意味であり、逆に言うと結果として経済的に間違ったとしても免責というニュアンスがあります。
よって合理的に判断してそうなったならよいことにするというわけで、本当はもっとよい経済実体を実現できた場合があるかもしれないということが含意されているわけです。

結果として、結論的には同じになるかと思いますが、取締役会は最適解を探す義務があるんだということまで考えられているのかというと、そこまではいっていないようです。



まったく別の論点ですが、会社法247条を用いることの当否が、第一審で検討され、抗告審でもそのまま引用されています。
これについて整理しておこうかと思います。

会社法247条は、募集新株予約権の発行をやめることの請求です。このブルドックのケースで用いられたのは、無償割当てで277条に規定されているものです。
このため、無償割当には差止めの規定がないことになります。
これは会社法制定時に、無償割当ての場合には不平等が起きようがないという理由で外されたものです。
株式についても同様に考えられており、差止めの対象を募集株式に限定しています。
しかしこれには、疑問が呈されており、神田教授も募集株式に関してその旨を述べておられます。
裁判実務も同様に解して247条の類推を認めているわけです。
すでに新株予約権の無償割当てを247条で差し止めた例はありますので、この点については判例による法創造がなされたということだと思います。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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