IDEC、モリテックスに対して株主総会決議取消の訴え、職務執行停止・職務代行者選任の仮処分申立を提起


委任状勧誘の結果、会社提案が承認されたモリテックスの定時株主総会ですが、争ったIDECは、去る6月28日、株主総会決議取消の訴えと決議が取締役と監査役の選任であることから、選任された取締役と監査役の職務執行停止・職務代行者選任の仮処分の申立を行いました。
*************************************************************************************************
モリテックス株主総会の決議取り消し、IDECが提訴(日本経済新聞2007年6月28日)
制御機器メーカーのIDECは28日、画像処理機器メーカー、モリテックスの株主総会での決議を取り消す訴えを東京地裁に申し立てたと発表した。(略)
 モリテックスの株主総会の運営が違法で不公正だったとして、決議取り消しを求める。取締役の職務執行停止の仮処分も申し立てた。27日の総会では会社側の提案が6割超の賛成票を集めて可決された。(22:30)
*************************************************************************************************
IDECのリリースはこちら
上記リリースからは、「著しく違法及び不公正な運営」としか理由が書かれていないので、具体的に何を問題として争うのかは定かではありませんが、委任状勧誘の最中以下のようなことがありました。
*************************************************************************************************
IDEC、モリテックスの株主宛文書について抗議を申し入れ(ThinkIT2007年6月19日)
 [東京 19日 ロイター] IDECは19日、モリテックス(7714: 株価, 企業情報, レポート)が14日付で株主に宛てて送付した「『議決権行使書』ご返送のお願い」と題する文書について、同社に対して抗議を申し入れるとともに、対処に必要な措置を開始したと発表した。
 この文書に記載されている「議決権を行使した株主様にはQuoカードを進呈」の部分に関し、会社法にある利益供与禁止規定や、会社法や民法にある取締役の善管注意義務などに違反するといった法律上の問題があるとしている。
(略)
*************************************************************************************************
これは、株主権行使にともなう利益供与の禁止を定めた会社法120条に該当しそうな感じがします。
そこでIDECが抗議したわけですが、これに対してモリテックスは以下のように答えています。
モリテックスのリリース
端的に言うと弁護士から意見書をもらっているので適法だと考えているとのことでした。
さて、委任状勧誘にあたり、株主権の行使を広く呼びかけるため、会社が議決権を行使した株主に金権を贈るのは、会社法120条で禁止されている株主の権利行使に関する利益供与の禁止に抵触するでしょうか。
会社法
第120条(株主の権利の行使に関する利益の供与)

株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。
3 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。
4 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(委員会設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。
この規定は総会屋への利益供与を禁止するためのものです。
要件を色々とつけると迂回されてしまったり立証に難があるため実が挙がらなかったのを反省して、かなり広汎な規制になっています。
ここで問題となるのは「何人に対しても」となっていることです。
文言上は総会屋以外への利益供与も禁止しています。
規定の趣旨から、総会屋にやるわけではないので大丈夫だという考え方もありえますが、江頭教授は、株主の権利行使に影響を及ぼす趣旨で会社が利益供与することは健全な会社運営を害するという見解にたって、閉鎖会社であっても適用がないと即断してはいけないとされています(江頭憲冶郎「株式会社法」有斐閣(2006年)320頁参照)。
これは、文言どおりに解する立場ですので、委任状勧誘の中多くの株主に参加してもらおうと考えての利益供与も、こう考えるとかなり適法性は怪しいことになるかと思います。
突き詰めて考えると怪しい可能性もあるように思われます。
どんな意見書を取ったのか気になるところです。
定足数を満たすために議決権行使に対して何か対価を支払うような実務的な例はあり、それらの実例については違法性は問題とされていないことから、今回の件はこちらに近いのだという説明をすれば適法ということになるかと思いますが、抜本的に異なるという立論も十分に可能であり、一概に判断はできません。
職務執行停止と職務代行者選任の仮処分は、問題となっている決議が選任決議であるため、セットにしなくてはいけないものです。
仮に決議が取り消されると、取締役と監査役が実は有効な選任を受けていなかったことになりますので、それまでにした行為の有効性が問題となってしまいます。
そのために暫定的に代行者を置いて処置しておくというわけです。
利益供与なんて総会屋に対してする以外は全く想定していないと思われますが、こんな実例も出てきてしまうなんて株主総会も変わったものです。
【追補】
定足数をみたすために議決権行使に対価を出している実務について記述を追加しました。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

One thought on “IDEC、モリテックスに対して株主総会決議取消の訴え、職務執行停止・職務代行者選任の仮処分申立を提起

  1. 会社法、通常の株式会社になる場合①

     ●株式会社に移行後、元に戻ることは出来るか 整備法には、特例有限会社から通常の株式会社への移行についてての定めは置かれているが、通常の株式会社から特例有限会社への移行についての定めは置かれていない。 解釈上も、いったん通常の株式会社に移行したら、……

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

post date*

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)