預金者保護法施行1年、救済の実例が蓄積される一方で新たな課題の提言も


キャッシュカードの盗難や偽造による預金の引き出し被害が報道を賑わせたのは少し前の話ですが、その対応として立法が通称「預金者保護法」、正式名称「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」を成立させました。
本日は同法施行からちょうど1年に当たります。
そもそもの問題状況ですが、盗難カードによって預金者ではないものに預金を払い戻してしまっても、民法の原則と判例によると銀行はなんら責任を負いません。
これは、その払い戻しが民法478条の債権の準占有者の弁済にあたるとされるためです。
第478条(債権の準占有者に対する弁済)
債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
偽造の場合だとシステムが甘いという可能性もありますので、必ずとまでは言い切れませんが、原則、銀行は免責といえます。
そこで、盗難・偽造のキャッシュカードと通帳が使用された場合で、機械払いで預金の払い戻しが行われた場合に限り、この478条の適用を排除するのが預金者保護法です。
偽造と盗難で保護される範囲は異なります。
各行も内規で補償の細目を定めている模様で、特に法施行前の事件に対してもある程度の補償を行っています。
ただその全貌は裁判例によって明らかになりつつある程度であるため、救済に差がでている可能性があります。
この法律は2年間たったら見直すことになっているのですが、すでに課題が指摘されています。
それは「通帳の場合が含まれていない」というものです。
預金者保護法では、実はカードの盗難・偽造だけでなく、通帳の盗難・偽造も含めているためこの指摘は正確な表現ではありません。
通帳を使って窓口で預金を下ろす場合が入っていないというのが正しい表現です。
これは機械払いに限定しているためなのですが、では機械払いに限定しているのになぜ法律では通帳まで含めているのでしょうか。
実は通帳だけでも機械でお金を下ろせるため、これも機械払いだとして含めているのです。このようなのを通帳機械払いといいます。
よって通帳と印鑑で窓口でおろすのは入っていないのですが、この点について含めるべきという提言が出てきつつあります。
現行で通帳による窓口払いを含めていないのは与党が銀行実務への影響を懸念したためですが、通帳の場合を含めても、印鑑の管理をめぐって過失の判断をすることになりますので、銀行のリスクが高まるのかどうか一概には言えません。
しかし、そもそも478条は債務者は弁済しないと債務不履行のリスクを負うことになるため、やたらと負担を課すわけにも行かないという事情があります。
判例が一貫して銀行の肩を持ってきたのは、基本的にリスクを負っている銀行によってたかるようになると公共性がある銀行の存立を脅かすと考えたからでした。
そういった点からやたらと銀行に責任を課すのは難しいとも思えますし、どうせそれにかかるコストは利用者に転嫁するからいいのだと考えることもできます。
後は政治判断でしょうね。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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