ローマ法王ベネディクト16世がイスラム教の聖戦思想を批判する講義を行い世界各地から批判が出ています。
当の発言は、「ムハマンドが新たに何をもたらしたのかを教えてほしい。自らの説く信仰を剣で布教しろという命令など、邪悪で残酷なものしかない」という言葉でこれ自体は、ローマ法王の作ではなく、14世紀末の東ローマ帝国皇帝の発言の引用です。
私個人は内容の当否はともかく、1453年の帝国滅亡を前に、そのような言葉を口にするしかなかった東ローマ皇帝は誰だったかに興味が行きました。
14世紀末の東ローマ皇帝で、そのようなことをいいそうな人物を探してみたところ、14世紀後半には、東ローマ帝国はほとんど領土がないにもかかわらず、帝位をめぐる争いを繰り返すばかりで、その中でさらに帝国の衰亡を早めたことがよく分かりました。
結局、1391年から1425年在位の優れた文人でもあり粘り強い政治力を見せたマヌエル2世ではないかと当たりをつけたのですが、CNNの報道では引用もとの皇帝の名前が掲載されており、正解だったことが分かりました。こちら。
オスマントルコとの圧倒的な軍事力の違いの中でどうすることもできず、身一つで帝国のわずかな未来を切り開くよう悩み続けたマヌエル2世は、文化人でもありなかなかの人物だったようです。
東ローマ帝国は、ローマ帝国とはまったくことなり、東西の教会の統一問題などを見れば分かるように、教条的なキリスト教の帝国で神(というか教義)を愛するあまり、同じキリスト教徒を憎んだようなところがありました。
優れたビザンチン文化があったことは認めますし、他民族の共生に取り組んだ国家であることは事実ですが、果てない神学の論争を続けるなどは人間を統治する責務を放棄しているに等しく、評価できません。
最近、文明の衝突論が受け入れられてしまったせいか、他民族の共生のモデルとしてのビザンチン帝国を見直す動きがあるそうですが、民族の概念のない頃の帝国ですし、現在の状況を批判的に見たいがために実際以上の評価をするのはいかがかと思います。