東京地裁、主権免除に関して制限免除主義を採用(2005/09/29)でお伝えしましたが、日本の司法の主権免除に関する考え方は、判例変更の機会がないせいで絶対免除主義のままでした。
このたび、外国政府関連の国際裁判管轄関係で最高裁まで上がった事件がありまして、最高裁は判例を変更して国家による商業的活動には裁判権免除を認めないという制限免除主義を採用しました。
最高裁判所第二小法廷平成18年07月21日判決 平成15(受)1231貸金請求事件
判決全文はこちらです。
事案としては、パキスタン国防省関連の会社に高性能コンピューターを納入したが代金が支払われないというもので、代金を貸したことになっておりその返還を求めるという準消費貸借であるため事件名上は貸金請求事件です。
原審である東京高裁は、下級審では制限免除主義を採る事例も起きてきている中であえてこれまでの判例である大審院昭和3年12月28日判決を全面的に引用、訴えを却下していました。
最高裁はこれに対して、
①大審院判決を変更して制限免除主義を採用
加えて
②主権行為であっても裁判権に服する旨を表明していれば裁判権から免除はされず、それには私人に出す契約等の書面でよい
としました。
この二点は諸外国の立法例や条約と同じ内容です。
アメリカの例で言うなら、1976年外国主権免除法1605条(a)(2)で上記①を、同(1)で上記②を述べています。
国家の商業的活動だけで十分であるはずなので、②を設ける理由は不思議に思えるかもしれません。
実は商業的活動と主権的活動を区別するといっても、一致した見解がなく争いとなることが多いため、事前の同意内容を重視することで入り口での争いを減らそうという考え方をしたためです。
今回の事例でもパキスタン側は、契約中で日本の裁判権に服する旨を合意しているようです。
最高裁は今回こういったグローバルスタンダードを全面的に採用して、先進工業国では唯一絶対免除主義が残っていた状況から日本を脱出させました。
こう考えると原審の東京高裁の頑なな態度の理由も勘繰られるものがあります。
ちなみに今回は判例変更ですが、小法廷判決にすぎません。
裁判所法10条3号より判例変更の際は大法廷を開かねばなりませんが、これは「前の最高裁判決」に反するときとかかれており大審院判決は入りません。
最高裁判所事務処理規則にも、「法令の解釈適用につき意見が大審院の判決に反する場合も小法廷で裁判してよい」と書かれています。そのため今回は小法廷判決で済ませているわけです。