キヤノン、インクカートリッジ訴訟で逆転勝訴 知財高裁、リサイクルカートリッジを特許権侵害と判断


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大変な注目を集めているインクジェットプリンタのリサイクルインクカートリッジをめぐる裁判ですが、知財高裁は大合議で審理の末、1月31日に判決を下しました。
東京地裁判決から一転、リサイクルカートリッジを特許権侵害と判断、キヤノンの逆転勝訴となりました。
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インクジェットプリンタのインクにメーカー純正品と再生品業者にやる廉価品があるのはどなたもご存知だと思いますが、これはレーザープリンタのトナーでも同じ状況でして、キヤノン、エプソンなどプリンタを製造しているメーカーの収益を脅かす存在となっています。一事が同様のビジネスモデルすべてにつながりますので、今回の判決の意義は極めて大きいといえます。

インクカートリッジはそのもの自体が特許です。またその製造方法もまた特許となっています。
今回取り上げられているのは、BCI-3eの4色インクのシリーズのようですが、すべての製品に共通するといってよいでしょう。

再生品業者である本件の被控訴人リサイクル・アシストはインクの再充填をしている会社ではありません。この件で問題とされた再生品を日本へと輸入・販売をしている会社です。特許権の中に輸入・販売は入っていますから、特許権侵害品を製造していなくても、侵害者となるわけです。
ちなみに再充填自体をしているのはマカオの会社名不詳の会社となっています。

さて論点はこのようなことです。
世の中にあふれている機械製品はほとんど特許を含んでいますが、すると購入した人は自ら購入したものの通常の使用をしているだけで特許権侵害を四六時中していることになってしまいかねません。(方法の発明ならありえませんが、物の発明の場合、特許権侵害になりえます)
そこで特許権の消尽という考えがあります。
すなわち適法に販売された以上、発明へのインセンティブという特許権の目的は達成されたということで特許権は消滅したと考えるということです。
よって購入した消費者が使用している限り、特許権者はかかってこないわけですが、この使用の過程においては、修理したり消耗品を取り替えたりと、用途どおりに使うことだけではすまない要素があります。

ごみとなったインクカートリッジを回収して再充填するのはこのようなこととみてよいのか、それともそういった場合には消尽は否定されて、特許権が復活するのかというのが問題点です。
消尽自体は、特許法に規定があるわけではなく、政策的見地からの特許権の制限としてのものです。
そのため個別製品、個別事象の戦場となってしまっています。
使い捨てカメラの電池交換は特許権侵害という判断がありますが、地裁はインクカートリッジについては逆の判断をしたわけです。

知財高裁は、消尽した特許権が復活して権利行使可となるケースを二種類に分類しました。
①効用を終えてから、それを原材料としての生産
②効用がまだあっても第三者が本質的な部分に手を加えた場合

効用を終えたというのは要するに寿命を迎えたという意味です。
ごみから新しく物の発明にあたるものを生産すれば特許権侵害であるのは当たり前ですし、第三者が手を加えた場合、特許権者が当初許諾した状態からの同一性が失われるからと説明されています。

知財高裁は、①については、一回の使用で寿命だとするキヤノンの主張を退け、効用は終わっていないとしました。
しかし②に関して、インクタンクに穴を開けて洗浄、インクを再充填して、ふさぐという行為が当該インクカートリッジ特許の本質的部分を構成している部材の一部についての加工又は変換であるとして特許権行使を可としました。

インクカートリッジの特許の重要な部分は、インクの液体が入っている部分と繊維状のものが入っている部分とに分けた分室構造であるとされ、その構造を維持するための派手な作業が単なる修理や補充を越えて特許権を侵害しているというわけです。
ここからキヤノンの主張を認め、輸入と販売差止めを命じました。

リサイクルに関する主張がリサイクル・アシスト側からありましたが、あまり法律論でないにもかかわらず、キヤノンは回収したカートリッジを燃料などに使っているとして退けました。

海外販売分のカートリッジも回収していたため、国際的消尽の話にもなっていますが、あくまでインクカートリッジを販売しただけで、生産設備や材料を販売したわけではないため、黙示的許諾をしていたとは解されないとして、否定しました。
並行輸入に関してはBBS事件がそのまま妥当するところですが、事実関係が相違するというわけです。

さてこの事件の判示からすると、この結論はインクカートリッジの技術的特徴に負うところが大きいため、トナーなど隣接事例ではどうなるのか微妙な感じを受けました。
トナーはメーカー自ら回収したカートリッジを再充填しているようですし、結論が逆になりそうな感じもあります。
まだまだ紛争の種は尽きずという感じがあります。
本件も上告されるようですので最高裁の判断もあるかもしれません。

仮執行宣言はついていません。よってリサイクル品の販売は継続されます。
今すぐに劇的な変化がおきるというわけではありませんのでリサイクル品を愛用している方は一安心というところでしょうか。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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