最高裁、後れた差押債権者が配当手続に参加するために執行裁判所に自らの存在を認識させる義務はないと判断


債権回収の手法はさまざまありますが、債務者の有する債権を差押えるのも有力な手段の一つです。
ただ、差押えられてしまうような債務者は、ほかにも債権者がいる事が往々にしてあります。
一つの債権に競合して差押がなされた場合、債権者平等の原則から債権額に応じて按分比例で配当を受けますが、実はすべての差押債権者が配当を受けられるように機会の保障が制度上あるわけではなく、知らないうちに別の債権者がいて手続終了ということもありえます。
ここで取り上げる平成18年1月19日の第一小法廷判決はこのケースです。
判決全文はこちら
債権者が第三債務者の陳述の催告をしたところ、差押えた債権(このケースでは供託物の還付請求権)に先行差押債権者がいることが判明、先行事件の執行裁判所は後れた差押債権者がいることに気づかずに配当をしてしまい、この債権者は配当を受けられず、裁判所を国家賠償法で訴えたというものです。
第三債務者の陳述とは差押債権に関する情報を得るための制度です。
これによって競合する差押があるかどうかがわかるわけです。
民事執行法
(第三債務者の陳述の催告)
第147条
1 差押債権者の申立てがあるときは、裁判所書記官は、差押命令を送達するに際し、第三債務者に対し、差押命令の送達の日から二週間以内に差押えに係る債権の存否その他の最高裁判所規則で定める事項について陳述すべき旨を催告しなければならない。
2 第三債務者は、前項の規定による催告に対して、故意又は過失により、陳述をしなかつたとき、又は不実の陳述をしたときは、これによつて生じた損害を賠償する責めに任ずる。

民事執行規則
(第三債務者に対し陳述を催告すべき事項等)
第135条
1 法第百四十七条第一項の規定により第三債務者に対し陳述を催告すべき事項は、次に掲げる事項とする。
一 差押えに係る債権の存否並びにその債権が存在するときは、その種類及び額(金銭債権以外の債権にあつては、その内容)
二 弁済の意思の有無及び弁済する範囲又は弁済しない理由
三 当該債権について差押債権者に優先する権利を有する者があるときは、その者の表示並びにその権利の種類及び優先する範囲
四 当該債権に対する他の債権者の差押え又は仮差押えの執行の有無並びにこれらの執行がされているときは、当該差押命令又は仮差押命令の事件の表示、債権者の表示及び送達の年月日並びにこれらの執行がされた範囲
五 当該債権に対する滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)による差押えの有無並びに差押えがされているときは、当該差押えをした徴収職員、徴税吏員その他の滞納処分を執行する権限を有する者(以下「徴収職員等」という。)の属する庁その他の事務所の名称及び所在、債権差押通知書の送達の年月日並びに差押えがされた範囲
2 法第百四十七条第一項の規定による催告に対する第三債務者の陳述は、書面でしなければならない。

第三債務者の陳述は執行裁判所を通じてやられるため、執行裁判所もこの内容を知ったため、執行裁判所が先行事件の執行裁判所(このケースでは両方とも大阪地方裁判所でした)に伝えてくれればよかったのにというのが債権者の言い分です。
原審は執行裁判所の義務違反を認めたものの、一方で債権者にも努力するようにということか、債権者自身が先行事件の執行裁判所に自らの存在を認識させるべきだったとして5割の過失相殺をしました。
最高裁はこの点を破棄、債権者には第三債務者の陳述は情報を得るための制度であり、自らの存在を認識させる義務を負うものではなく、その他に特に措置があるわけでもないことから、債権者の義務を否定しました。
執行裁判所の義務については判断を維持しました。
私法上の権利では、権利者は胡坐を欠くべからずという考え方が根強く、権利の確保のために努力すべきという言い方もよくなされますが、さすがに制度上何も規定されていないのに勝手に努力義務を課すわけに行かないということでしょう。
ただだからといって実務的にはこう判断が出たからといって何もしないでよいということにはならないでしょうね。

About Arakawa

サラリーマン経験のある弁護士兼社会保険労務士 このサイトでは、ビジネス関連の法律ニュースをもとにして私見をお送りするブログです。 ●筆者紹介 埼玉県立川越高校卒 東京大学法学部卒 東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了(法学修士) 専攻・国際私法、国際取引法、会社法 某企業で法務担当というよりむしろ労務担当 東大ロースクール修了 新司法試験合格 弁護士登録 現在,弁護士兼社会保険労務士です。

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